ルシアンの真剣な声音に、紫水晶の瞳に、アマリリスは囚われた。

「君の憂いを払うのは、婚約者である僕の役目だよ。なんでもいいから話してみて」
「ルシアン様……」

 アマリリスは誰かに頼るということを長い間忘れていた。それが許される環境ではなかったし、心優しい使用人たちは手助けしてくれたけど、大体のことは自分自身でどうにかしてきたのだ。

(婚約者だから頼ってもいいなんて……そう言わたらそうなんだけど、甘えすぎてもいけないわよね)

 ダーレンと婚約を結んでいる時、アマリリスは悩み事があると第三者の公正な意見が聞きたくて相談していた。まだ両親が健在でたびたびお茶の時間を共にしていたから、何度かその時間を使ってダーレンに話をしてみたのだが。

『はあ? そんなこと言われても私がわかるわけないだろう。くだらない話をしないでくれ』
『悪いが、今はそれどころではないのだ。それより私の話を聞いてくれ』
『それくらい自分で考えたらどうなんだ? お前にも考える頭はついているだろう?』

 何度も何度も、そんな風に切り捨てられた。今となってはどんな相談内容は覚えていないが、切り捨てられたことだけははっきりと記憶に残っている。