王太子ルシアンの婚約者が決まったと周知されたのは、夏の暑さも過ぎ去り秋へと季節が変わる頃だった。アマリリスが春に王城へやってきてから四カ月ほど経っている。

 アマリリスが婚約者となり、妃教育も始まった。それでも本を読み漁ったおかげで教養は十分あるとみなされ、主に貴族関係や礼儀作法について学んでいる。

 午前中に妃教育、お昼からルシアンと合流し腹黒教育をこなす忙しい毎日だ。

 公式にアマリリスが婚約者だと発表されてから、ルシアンは場所を問わずこれでもかと愛情表現をしてくるようになった。今も執務室で休憩の時間なのだが、侍従がいるにもかかわらずアマリリスを膝の上にのせて抱きしめている。

「はあ、リリスに癒されるなあ」
「……ルシアン様、授業を再開しますのでいいかげん下ろしてください」

 腕を解こうとしてもビクともしないので、アマリリスは無我の境地に至っていた。
 しかし、そろそろアマリリスが精神的に限界で、少し早めに昼休憩を切り上げて腹黒教育に戻りたい。

「まだ休憩時間でしょう? ちゃんと休まないと効率が悪くなってしまうよ」