和美は両手でスマホを握りしめた。
自分では普通にしているつもりだったけれど、知らない間に両手には汗が滲んでいる。


みんなが、特に由佳が喜ぶかもと思って考えたことだったけれど、本当に岩上の個人情報を売買させることになるとは、このときまで考えてもいなかった。
でも、もう後戻りはできない。
ここまで来て『やっぱりやめる』なんて言えば由佳からどう思われるかわからない。


弱虫と罵られて、明日から岩上と同等の扱いを受けてしまうかもしれない。
そう思うと怖くて、ここで引き返すことは絶対にできないと思ってしまった。
和美は震える指先でスマホ画面を操作する。


『情報を入力する』という文字をタップすると、短い文章と写真が添付できる画面に切り替わる。
それはどんなSNSでも見られるごく普通の画面だったけれど、今だけはまるで別物のように見えていた。
由佳たちがジッと視線を送って来る中、和美はまず文章を打ち込んでいった。


『美人淫乱教師の個人情報を売ります』
そう書き込むと由佳が小さく笑った。
顔を上げてみると、由佳の目は好奇心でランランと輝いている。


文字を打ち込んだ後に合成写真を添付する。
それで、送信ボタンを押せば終わりだ。