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 夢の一夜から一カ月が経った――。

 あの日、実家に戻ってこの地を離れることを報告した。両親は、兄夫婦と同居をしていて、私が心配する必要がないので、安心して任せられる。幼馴染が結婚したタイミングもあって、何かを察してくれたのか反対されることはなかった。ただ、定期的に連絡をすることは約束させられた。

 次は、職場だ。私は、チェーン店のフラワーショップに勤めている。急に辞めることを許してもらえるか不安だったが、正直に理由を話した。

「わがまま言ってすみません」
「美夜ちゃんがいなくなるなんて寂しいわ。真面目でお客様の評判もいいから」
「ありがとうございます」

 大学在学中からアルバイトとして働き、このお店に就職した。店長の人柄もあり、今日まで何不自由なく働いてきたお店だ。

「もう、どこへ行くか決めたの?」
「いえ……」
「じゃあ、うちの支店があるところへ行くのはどう?」