驚く私を残して、壱夜さんは車に乗り込み去っていった。

「ママ〜、どうしたの?」
「えっ、あっごめん。帰ろうか」

 マンションの前で思わぬ出来事に遭遇して、未だに頭が働かない。そんな私とは対象的に沙夜のテンションが高い。

「さっきのおじちゃん、イケメンだったね」
「へ?!」

 小さな娘の言葉が、私の内心を動揺させる。

「抱っこしてもらった時、いい匂いがした」
「えっ?!」

 娘はすでに壱夜さんの存在を認めている。血が繋がった親子なだけに、純粋な子供には何かを感じたのかもしれない。壱夜さんの気持ちを確認して、沙夜が望む形にすることが、母としての私の役割なのだと思えてきた。

 大切に取ってあったメモを見て、ショートメールを送った。待ち構えていたのかと思うほどすぐに返事が返ってきて驚く。そこには、次の土日の予定を問う文章が入っていて、会う約束をしたことを思い出す。

 店長にメッセージを送ると、日曜日なら大丈夫だと言ってくれた。壱夜さんにそのことをメールをすると、日曜迎えに行くと返事が来た。