自転車に沙夜を乗せて、私達の住むマンションまで帰って来た時だった。この辺りでは見慣れない一台の高級車が止まった。

 そして、車から降りてきたのは――。

「なんで……」
「さっき、店まで行ったんだ。そしたら、美夜が自転車で走り出したから」
「後をつけたの?」
「声を掛けるタイミングがなかったんだ」
「……」

 再会したばかりで、沙夜の存在がこんなにすぐにバレるとは思っていなかった。壱夜さんの子だとバレずにやり過ごすことが出来るのだろうか。

「ママ〜誰?」
「え〜っと、お仕事の人」

 壱夜さんが沙夜を近くで見て驚きの表情を浮かべながら凝視している。

「はじめまして〜」
「あっ、えっと、はじめまして」

 沙夜の天真爛漫な姿に壱夜さんがタジタジだ。
 
「花木沙夜です」
「沙夜ちゃん……」
「お名前は?」
「東雲壱夜です」

 もうすぐ三歳になるとはいえ、あまりにもしっかりしているわが子を誇らしく思うが、今は不要なことは言わないでほしいと願ってしまう。

「いちや?」
「そうだよ」
「みんな『や』がつくね。おもしろい〜」