「美夜ちゃん、そろそろ上がらないと」
「え?あっ、本当だ」

 ブーケの企画で頭がいっぱいでも、仕事が終われば私は沙夜の母親だ。沙夜の保育園まで自転車を走らせる。

「遅くなりました」
「お疲れ様です。沙夜ちゃん、ママがお迎えに来たよ」
「はーい」

 先生からの呼びかけに教室からわが子の可愛い返事が聞こえる。

「沙夜ちゃんしっかりしているから、本当に私達が助かっているんですよ」
「私がしっかりしていないから、沙夜がしっかりしてくれているのかも」
「あら、沙夜ちゃんからはいつもママの自慢を聞いていますよ」
「へ⁈」
「フフッ、『沙夜のママが世界一可愛くて優しい』って口癖です」

 先生からの言葉に、頬が火照るのがわかる。パパがいない沙夜に寂しい思いをさせてしまっているが、そんなことを言ってくれていると聞くと涙が出そうだ。私の方が沙夜に支えられて今日まで頑張って来られているのに……。

 あの時の判断が間違っていなかったのだと実感する。いつか、パパの存在を聞かれたら、素敵な人だったのだと素直に伝えよう。