下校するところだったのか、先輩は持っていたスクバから絆創膏を取り出して、俺の指を手当てしてくれた。
『あたし、宇佐見くんがバスケしてるとこ見るの好きだから、大きなけがとかしないでよね』
”好き”
それが俺自体に向けられた言葉ならいいのに。
同時に、こんな小さな怪我なのに大騒ぎな先輩を見て、ふっと笑ってしまう。
あぁ、俺…この人のこと、好きだなぁって。
『よしっ、できた! この花瓶はあたしが片付けておくから、宇佐見くんは先に…』
『知慧』
『…え?』
『下の名前、知慧です。…知慧って呼んで、先輩』
宇佐見くんなんて。
他人行儀すぎて、嫌だとおもった。
先輩だけ。
名前呼びしてほしいのは、先輩だけ。
『ええ…? じゃあ…なんか弟みたいで可愛いから、ちさくんって呼ぶね』
『…いいですけど』
弟みたい。
…可愛い?
気に入らなかった、正直。
先輩のほうが可愛いし。
男だからかっこいいって言われたいし。
…でも、”ちさくん”というそのあだ名。
先輩だけの特別な呼び名。
他の誰にも、そんな名前で呼ばせないからね。
結局そのあとは、ふたりで花瓶を片付けて、先生に謝りに行くのまで先輩がついてきてくれた。
昔からしっかりした先輩が大好きだったけど。
高校に上がってから頻繁に弁当を忘れるような、抜けてる先輩も好きだよ。
もっと俺に頼って。
もっと俺に甘えて。
…柊木高嶺のことなんか見ないで、俺だけ見てて。



