「元気ないね、楓夕」
隣で同じくマフラーを首に巻いた高嶺が言う。
白い息が高嶺の端正な顔に映えていて綺麗だ、と思った。
今日も高嶺に待ち伏せをされていて、校門から教室まで一緒に歩く。
…元気、ないか。
そりゃそうだよね。
最近はずっと、明るく笑うこともできなくなっている。
「んー…」
「俺には相談できないこと?」
「うん」
高嶺のことも、これ以上悲しませられない。
第一、あたしは高嶺に恋をしてるんだから、ちさくんのことなんか気にする必要はないんだけど…。
ちさくんが昔から仲のいい後輩だったから、迷ってる。
このまま忘れたら罰が当たるんじゃないか、とか。
「まぁ、あらかた想像つくけど」
そういってのける高嶺は、嘘なんかついていなさそう。
…すごいね。
あたしのこと、なんでもわかるって、本当だね。
「…っ」
校門をくぐった先。
今まさに考えていた人物の姿が見えて立ち止まりそうになる。
…そっか、ちさくんはもう…あたしに振られてすっきりしてるのかな。
ちさくんの隣にいる女子を捉えて目を細め、小さくため息。
…それなら、あたしももう忘れよう。
忘れて、あとは全力で高嶺を好きでいるだけだ。