◇
「おはよ、楓夕」
──シンプルに、息が止まりそうだった。
…というか、たぶん、一秒くらい止まった。
ドッドッ…と速める鼓動。
痛い。心臓が、痛い…。
だって、今までずっと避けられていた好きな人に、突然話しかけられた時の気持ち…想像できる?
場所は学校の最寄り駅。
改札を降りたところ。
バスの時刻表だと、バスの到着は今より10分前か、今より5分後か…。
ってことは、10分間ここにいたってこと?
「…楓夕?」
「あ……はい」
「なんだよ。俺、勇気出して話しかけたのに」
眉毛を下げて笑う高嶺。
あ…その顔、好きだ。
あたしと話さなかった間も、他の女子には見せなかった笑顔。
ようやく、見れた…。
「…泣きそうなの? なんで?」
高嶺と話せて、嬉しいから…。
なんて、言ってあげない。
ちゃんと、告白する勇気が出た時のためにとっておく。