誰かのためにこんなに一生懸命になったのははじめてだった。
誰かを失いたくないなんて気持ち、はじめて知った。
──浅桜楓夕、という女子生徒。
ただひとりの、同級生で、クラスメイトで、去年までは名前しか知らなかった存在。
今では深く深く俺の胸に刻まれて、もう手放したくない女の子。
俺のことを、ここまで夢中にさせた、特別な女の子だ。
だから…俺は楓夕のためだったら、どこまでも走るって決めた。
決めたんだよ、楓夕…。
「ふゆ……っ! 楓夕…っ」
精いっぱい名前を呼んで、無我夢中になって走る。
楓夕…楓夕、どこ…。
しばらく走ったあと、ようやく見つけた見覚えのある黒髪。
ゆるく巻かれた毛先が風に揺れている。
「楓夕っ!!」
名前を呼んで手をつかむと、彼女は驚いたように顔を上げた。
次第に、目に涙が浮かんでいく。



