そこには、俺がずっと話したいと思っていた浅桜楓夕の姿があった。
そいつは”しまった”というような顔をして、後ろめたそうに目をそらす。
『…盗み聞きしてたわけじゃないよ』
別に疑ってない。
…はじめて、声聞いた気がする。
『浅桜?』
『…はい?』
『下の名前、なんて言うの』
まさか俺から話を振ってくると思わなかったのか、楓夕は一瞬目を丸くして、俺の目を見上げながら答える。
『楓夕…』
『ふゆ? …漢字は?』
『え。…木へんに風、で楓。それに夕方の夕…』
俺に質問されてこんなにめんどくさそうな顔をする女子、今までいなかった。
…ますます興味深い。
『あの、じゃあ…あたしもう行くから』
『待って』
思わず引き留めた。
…他の奴らの目に晒すの、惜しい。
俺らしくない考えに、自分で違和感を覚えながら、楓夕の手首をつかんで”腕ほっそ…”なんて考える。



