彼方まで続いている青い空をバックに、モダンな高層ビルが立ち並ぶ景色。それを眺めている長身の医師と、クラシカルなデザインの椅子にゆったり腰掛けた熟年の女優(少しやつれてはいたが)の組み合わせは、なかなかの絵になった。

 あまりにも良かったので、写真を撮らせてもらったほどだ。

「摩天楼みたい。あの時の…Till I hear you say…」

 母が小さくつぶやいた。語尾はきき取れない。斉木先生は何もおっしゃらない。母の独り言らしいが、二人の間にはなんとなく邪魔しづらい雰囲気があった。

「じゃあ、お母さん。今日はこれで失礼するわね。斉木先生、失礼します」
「ありがとう。深青さん」

 母の声を背に、部屋を出る。


 母のあの独り言は何度も聞いた。わたしといる時には言わない。いつも、斉木先生がいらっしゃると、そっと母がつぶやくのだ。