ノックの音がした。部屋に入ってきたのは…。

「こんにちは。母がお世話になっています」

 椅子から立ち上がり、白衣を着たその人に向かってお辞儀をする。

「こんにちは深青さん。売れっ子作家だからお忙しいでしょう」
「いえいえ。売れっ子なんてとんでもない。まだまだ新人ですから」

 綺麗な白髪は、いつ見てもきちんと整えられていて清潔な印象だ。背が高くすらっとしている。通った鼻筋と広い額、優しげな目。斉木先生はこの病院の院長である。

 七十代の半ばだと母から聞いていたが、そんなご年齢に見えない。もっと若く見えた。定期的にスポーツジムへ通い、水泳で鍛えているからと、以前に、ご本人からお聞きしたことがあった。

「お加減はどうですか。白石さん。痛みなどは」
「大丈夫です。今日は具合が良いの」
「そうですか。良かった」
 
 母は相変わらず窓の向こうを眺めている。その横に斉木先生が立った。