「出版するかどうかまだ決めていない。女優白石美麗の伝記なんて出したらきっと売れると思うけど」
「どうかしら。大コケするかもよ」

 笑った母の横顔はやつれてはいたけれど、気力はまでは衰えていない。抗がん剤治療はやめていたが、抜けてしまった髪は元どおりになっていないので黒髪のウィッグを被っている。

「新作の小説は?書いているの?」
「執筆中よ。出るのは年が明けてからかな」
「それじゃあもう私は読めないわね。残念だわ。深青さんの小説を読むのが楽しみだったのに」
「今度、原稿を印刷して持ってきてあげる」
「まあ嬉しい。いいの?」
「うん。大切な読者様のためだからね」