わたしが大学を卒業した後に母は離婚した。母の家だったので父は出て行った。成人して就職した弟もとっくに独立している。だから母が入院してからは実家には誰もいない。

「それじゃあ、昨日の続きから話して」

 壁際にあった椅子を母のそばに置き、腰を下ろす。ボイスレコーダーのスイッチを入れる。

「お父さんと離婚したのが…」
「あなた大学を卒業した年よ」
「離婚の理由は、ちゃんと聞いていなかったような」
「あなたにこんなことを言うのはあれだけど、そもそも親が勝手に決めた人だからね」

 今どきそんな風習が残っているのかと疑問を抱いたが、母方の家系は、その昔は庄屋だったという由緒ある旧家だから、あり得なくはない。

「それなのに出来ちゃった結婚なんだよね。母さん」
「うん。そうよ。ねえこれ、本にするのだっけ」