「嘘ばかりのこの世界で、ただ一つの真実があるとしたら、それは、誰かを好きになった自分の気持ちだと、私は思うの」

 わたしに背中を向けたまま、まるで独り言のように静かな声で母が喋った。

「自分に嘘はつけない。誰かを好きなるのは理屈じゃない。恋は落ちるものだから」
「それは…そうすると、あの記事は本当なのね」
「彼のことが大好きだった。好きなっていけない人でも、愛していた」

 否定するだろうと思っていた母があっさり認めたことに、わたしは軽いショックを受けていた。

「当時の私は、役者としてぜんぜん芽が出なくて、演技を認めてもらえなくて、辞めることばかり考えていた。そんな中で彼に出会って恋に落ちた。道ならぬ恋なのは承知の上で」