「おはよう深青さん」

 部屋のドアを開けると、いつもの母の声がわたしの名を呼んだ。今日の母も窓際に置かれたチェアに座り、窓の外に目をやっていた。

「今日は何の話をする?」
「お母さんが若い頃の、お父さんと結婚する前のことを聞きたい」
「脇役しか仕事が無かった頃の?」
「そうなんだけど」

 あの件を聞いてみよう。今まで母が語ってこなかったあの話を。

「いつか週刊誌に、お母さんの若い頃の…そのう、秘密の恋人についての記事が書かれたことがあったよね」
「ああ」
「その話を聞きたいの。お母さんの口から」

"まだ無名の役者だった白石美麗の不倫の恋"

 数年前、芸能人のゴシップが得意な週刊誌にそんなタイトルの記事が載ったことがあった。妻子ある男性との密会とか、ホテルでの秘密の逢瀬とか。