「郁…!」

碧が空を見上げる。
風が吹き、一瞬、郁の香りがしたような気がした。


別れの時。
棺に入り、色とりどりの花で埋め尽くされた郁。

白く滑らかな肌。
こころにメイクをしてもらった頬は、ほんのりピンクに染まり、恋をしている少女のようだった。
小さな唇には、普段郁があまりつけない口紅が、控えめに、とても自然につけられており、美しかった。

様々な痛み、苦しみから解放され、穏やかに微笑んでいるように見える郁は、まるでただ少しうたた寝しているかのようだった。

ただ、何度郁の髪を撫でても、何度呼びかけても、もう起き上がることはない。

碧は、みんなに頼んで2人きりにしてもらった。

胸の前で組まれた郁の手を碧が握りながら、こんなに細くて、小さい手だったかと感じる。

「…郁。今まで本当にありがとう。何度も何度も、最後まで、苦しい思いをさせてごめん。きれいな体を傷つけてごめん。もう苦しくはないか。よく頑張ったな」

碧は、優しく微笑み、愛おしそうに郁の頭を撫でた。

「手紙読んだよ。最期まで俺とひなたの心配をしてたんだな。ひなたは念の為まだ入院しているけど、とても元気だよ。俺とひなたのことは、大丈夫だから…どうか、ゆっくり休んで。愛してる…」

郁の手にキスをし、棺の扉を閉めた。

郁は、愛する人たちに見守られながら、空に高く登っていった。