穏やかに晴れた郁の葬儀の日。

碧は、郁が1ヶ月前に「出産の時に、自分に何かあったら碧に渡してほしい」と言ってこころに預けていたという手紙を受け取った。

外に出て、青空の下、ベンチに腰掛け碧は封筒を開く。



「大好きな碧へ

この手紙が碧に届いたってことは、私は碧に謝らないといけないね。

妊娠・出産はただでさえ命懸けだって聞いてたから、碧に渡さなくて済みますようにって祈りながら、この手紙を書いたの。

碧、先に死んでしまってごめんなさい。
碧を、たくさん悲しませてしまったよね。
別れの挨拶は、ちゃんとできたかな…

私は、元気な赤ちゃんを産むことはできた?
最低限の母としての役目は果たせたかな?
私は少しでも、抱っこできたりしたのかなぁ。
碧との赤ちゃんなら、絶対に可愛いだろうな…

できることなら、家族3人で過ごしたかった。
ずっと一緒に笑って生きて行きたかった。
体が持たなくて、本当にごめんなさい。

赤ちゃんにも、寂しい思いをさせてしまうことが、とても心残りです。

でも、もし、碧が私を救えなかったと悔やんでいるなら、それは大間違いだからね。

私は碧が何度も何度も私を救ってくれて、小さい頃の約束通り、私の心臓を治してくれたから、私は素敵な思い出をたくさん持って天国に行けるんだよ。

約束を覚えててくれて、守ってくれたこと。
まるで王子様みたいだと思っていたよ。
私に新しい人生をくれて、本当にありがとう。

碧がいたから、私はこれまで知らなかった世界をいっぱい知ることができました。

未来を夢見ることなんて出来なかった私に、碧はたくさんの夢を与えてくれた。

碧に恋して、恋人になって、夫婦になれて…父と母にもなれた。

痛いことや苦しいことだらけだった人生が、碧と会ってから、キラキラと輝いていました。

人よりは短い人生だったけど、私は、あなたと出会えて、あなたと生きることができて、本当に、本当に幸せでした。

あなたの妻になったり、あなたの子どもを産めるだなんて、きっと、一生分の運を使い果たしちゃったのかな。
それでも、何度生まれ変わっても、あなたが許してくれるなら、私は碧といる未来を選ぶよ。

いつも優しくて、人のことばかり考えてて、無理しちゃう碧。
それがあなたのいいところでもあるんだけど…どうか、身体を大切にしてね。

そして、私の通院のために断ってくれていた、アメリカ行きの話を進めて。
どうか、私のせいで夢を諦めないで。

向こうのお父さん、お母さんの力を借りて、碧自身の生活も、子育てについても、助けてもらって。

あなたにばかり負担をかけてしまうことを許してください。
こんな妻でごめんなさい。
どうか、私たちの子をよろしくお願いします。


言葉にできないほど、碧を愛してる。
どうか、私に縛られず、前に進んで。

いつか、しわしわのおじいさんになってから、天国に会いに来てね。
ゆっくり待ってるよ。

ありがとう。
悲しいけれど、少しだけ、さよなら。

郁より」