大きな一軒家の中に住む夫婦と女の子の元に、1組の仲の良い家族連れが遊びに来た。

女の子は、久しぶりに家にやってきてくれた少年を見て、大きな目をキラキラさせ、満面の笑みで抱きつく。


夫婦たちは時折難しい医療用語をおり混ぜつつも、親しげに談笑している。

少年は女の子のお絵描き遊びに付き合っている。
その少年は、女の子のことを慈しみにあふれた視線で見守り、可愛がっている。


30分ほど経過した時、女の子がぐずり出す。

「あおくんと、おそとであそぶのー!ようちえんのせんせーが、あたらしい こうえんができたっていってたの。あおくんと、いっしょにあそぶー!」

女の子は少年の手を掴んで離さない。

「ワガママ言わないの!碧くん困ってるでしょ!手術も近いんだし、大人しく家にいましょう」

母親がそんな女の子を嗜めている。

「…ごめんね、郁ちゃんの病気がよくなったら行こうね」

少年は困った顔をしながら、女の子の頭を撫で、優しく諭す。


「いやー!いきたいのー!!いつも、いたいこと いっぱいがまんして がんばってるもん!なんで いくだけ がまんばっかりなの!」

大声で泣き出した女の子。

普段は年齢の割に聞き分けが良く、あまり泣かない女の子。
今日は珍しく泣きすぎてしまい、息が荒くなっている。

酸素不足からチアノーゼを起こし、女の子の白い肌がさらに白くなってきた。

「ほら郁、泣きすぎるとしんどくなっちゃうからね。ベッドにいこうね」

女の子は母親に抱っこされて寝室に連れて行かれ、ベッドに寝かされる。

母親は慣れた手つきで女の子の胸に聴診器を当て、胸の音を聞いている。

「…少しお胸がしんどくなってるから、酸素を吸いながらここで寝てようね。」

「いやだ…あおくんと…あそびたい…」

母親は在宅酸素の機械の電源を入れ、女の子の鼻にカニューレを付ける。

母親が優しく頭を撫でていると、少女はすぐに力尽きて眠ってしまった。


─1時間後─


少年が寝室のドアを開いた。

ドアの音で、少女は眠りから目を覚ます。
まだ少しだるそうで、顔色も良くない。

「あおくん…?」

「ごめんね、起こしちゃった?もう塾に行く時間だから、僕は帰るね。また遊びに来るよ」

「…あおくん、かえっちゃやだ…」

力ない声を出しながら、女の子は目に涙を溜める。

「…ごめんね、泣かないで…泣くと、またしんどくなっちゃうからね」

少年は女の子の頭を撫でる。

「郁ちゃん、僕、将来お医者さんになりたいんだ。そのために塾に行って勉強を頑張ってる。郁ちゃんの病気がもしその時まで治ってなかったとしても、僕が絶対に郁ちゃんのことを治してあげる」

「ほんと…?あおくんがなおしてくれたら、おそとでも、あそべるようになる…?」

「約束だよ。だから、郁ちゃんは無理をしないで、お医者さんやお父さん、お母さんの言うことをよく聞いてね」

「わかった…いく、がんばるよ」

女の子は少年に向かって微笑むと、またスヤスヤと眠ってしまった。