─深夜1時─

碧が帰宅し、眠っているであろう郁を起こしてしまわないよう、そっと玄関のドアを開ける。

真っ暗だと思っていた部屋が、少し明るい。

トイレの電気がついており、ドアが開いていた。
近づくと、床に膝をついた状態の郁の足が見える。

郁が急変した時のことを思い出し、冷や汗が出る碧。

「郁!?」

郁は、便器に向かって突っ伏しており、息が荒く、顔が真っ青だった。

「郁!大丈夫か?」

肩を抱く碧は、郁の意識があったことにひとまず安堵していた。

「碧、おかえり…ごめん、大丈夫だよ…ちょっと戻しちゃっただけ…」

郁は立とうとするも、足元がおぼつかない。

急いで郁を抱き上げ、寝室のベッドに寝かせる碧。


「郁、どうしたの?いつから?」

「朝からちょっと気分が悪かったんだけど、昼からどんどんひどくなってきて…」

碧が郁の熱を測るが、発熱はしていない。
脈も正常だった。

触診すると、肌のハリが無く、極度の脱水がみられた。

「昼からずっと戻してるのか?何も飲まずに?」

無言で頷く郁。

「…郁、このままだと危ないから、一度病院に行って入院しよう」

「…大げさだよ…朝になってから診察を受ければ大丈夫」

「郁。」

「…わかりました…」

真っ直ぐに郁を見つめる、碧の力強い瞳。
普段優しい碧の真剣な眼差しに、負けてしまう郁だった。

その後、碧は郁を車に乗せ、自身が勤務する葉山大学付属病院まで運んだ。