穏やかな日々が続いた。

郁は、生活に多少の制限はありながらも、先天性の心臓病を患っていたことなど嘘のように元気に過ごしていた。

大学4年生の3月には、管理栄養士の国家資格に合格し、自分がお世話になった葉山大学付属病院の管理栄養士として、就職も決まった。

碧は、郁が毎日をいきいきと過ごし、精一杯夢に向かって努力していくのを間近で見られることが嬉しかった。

碧自身も、郁の作る栄養バランスのとれた食事のおかげで、心身ともに大変ハードな医師の仕事を、毎日体調を崩すことなく、前よりも精力的にこなすことができていた。


4月から、葉山大学病院の管理栄養士として、入院患者の栄養管理を任された郁。

担当数や仕事量がとても多かったが、郁は毎日何時間も残業してでも、患者一人一人にきめ細やかな栄養管理を行っていた。

しかし、やはり無理がたたり、風邪を引いて熱を出すことも多かった。

免疫を抑える薬の影響で、少しの風邪が1日で肺炎寸前にまでなってしまったこともあった。

「郁の体と、幸せのどちらも守るために、俺がしてあげられることはなんだろうな…」

熱を出して眠る郁を見て、主治医として、恋人として悩む碧だった。