移植後の生活は、今まで郁が生きていた中で初めての経験ばかりだった。

移植された心臓に体が拒否反応を示さないよう、免疫を抑える薬を飲む事を欠かしてはならないことや、免疫を抑えているため感染症になりやすくなるので注意することなど、日常生活に制限はある。

しかし、運動したり、ゆっくりと湯船に浸かれることなど、郁には初めての経験ばかりだった。


初めての経験をする度に、改めてドナーとなってくれた人、碧をはじめとした、命を救ってくれた病院のスタッフたちに感謝する郁だった。


退院して1ヶ月後には大学にも復帰でき、充実した毎日を送っていた。

限界まで頑張ってしまう郁を碧はいつも心配していた。

しかし、大好きな郁と一緒に暮らせること、目を輝かせながら楽しかったことを語る郁をそばで見られることが心から幸せだった。

郁も、忙しい碧のため毎日栄養バランスのとれた食事を作ったりと、自分のことを後回しにしがちな碧を気遣える距離で暮らせる生活ができることに、心が満たされていた。