静かな夜の病室に響く、心電図、呼吸器の音。
もはや郁にはその音が懐かしいとさえ思えた。

どれほど眠っていたのだろう。
ゆっくりと目を開ける。

痛みやしんどさが体のどこにも無く、これまでの人生で一番すっきりとした目覚めかもしれない。

口には管が入れられているので言葉を発することも、身動きもとれない。

手が温かい。

ふと手元に目をやると、ベッドサイドの椅子に座る碧が郁の手を握りながら、郁の布団に突っ伏して寝ていた。

言葉で伝えることができないので、筋力が弱った手を握って知らせる。

碧くん、起きて。
碧くんの幼馴染の郁だよ。
碧くんに会うために、帰ってきたんだよ。

…また髪がボサボサで、白衣がヨレヨレだよ。
ごめんね、私が無理させちゃったのかなぁ。

「…ん…?」

目覚めた碧と、郁の目が合う。

目を細め、笑いかける郁。

「…!郁…ちゃん!」

「…もう目覚めないかと思った…!せっかく敗血症が治ったのに、それから1ヶ月も、眠ったままだったんだ…!」

立場を忘れ、涙をこぼす碧。

1ヶ月ぶりに見る碧は、今までで一番やつれていた。

ごめんね、碧くん。心配かけちゃったね。

筋力が落ちた手で、震えながら、碧の涙を拭った。

しばらくして、碧は医師としての立場に戻り、スタッフたちの応援を呼ぶ。

呼吸器を外してもらい、声が出せるようになった郁。

「しんぱい、かけて…ごめんなさい…」

声の出し方を忘れかけていた郁は、ゆっくりゆっくりと言葉を話し始める。

手を握る、受け答えなどができるか確認されたが、問題は見当たらなかった。

また、失っていた記憶に関しても、戻っていたことがわかり、碧達を驚かせた。

皆が、この回復は奇跡だと言った。

藤井を始め、看護師には泣いている者もいた。

自分のことを思い出したと知った碧は、あふれる涙を堪えるのに必死だった。