懸命の治療にも関わらず、郁は細菌感染が重症化し敗血症を発症した。

眠り続ける郁。

出来得る限りの治療を行う碧だが、全身状態は悪化していく。

他の医師らからは、郁に残された時間はもう長くはないと言われていた。

それでも碧は決して諦めなかった。
少しでも時間があれば、眠り続ける郁の元に通い、回復を祈りながら手を握り、頭を撫でた。

「郁、起きて。伝えたいことがあるんだ。」

涙を流す碧の言葉にも、反応は無かった。

「郁、たくさん頑張らせてごめん。…郁の笑顔が大好きなのに、俺は郁が苦しむことしかしてないな…」

「…郁を愛しているんだ。郁がいない世界なんて考えられない。生きていても、俺は郁に苦しいことばかりしてしまうかもしれないけど、それでも、俺のために、どうか…どうか、生きていて…」

今だけは、医師としてではなく、素直な思いを吐き出す碧。

人工呼吸器の音に合わせ、郁の胸が膨らむ。
華奢な細い体に繋がる、無数の管。
閉じられた瞼。

例えそんな姿でも、碧は郁を愛しいと思った。

碧は、郁のおでこにキスをした。
碧からこぼれる涙が、郁の頬に落ちた。