血液検査の結果、郁の体には細菌感染が起こっていることが分かった。

術後の感染は、郁にとっては命に関わる問題であり、最大限の警戒をしていたことだが、防げなかった。

何度闘っても次々に訪れる試練。
できることなら、郁の苦しみを代わってあげたいと碧は思った。


抗菌剤の点滴など、できる限りの治療を行っていても、日ごとに郁の熱は高まり、悪化していった。

うつらうつらとして過ごすことが増えた郁。

それでも、診察に来る碧を見ると嬉しそうに目を細める。

ベッドサイドに腰掛ける碧に、郁が口を開く。

「…先生…また来たの…?」

弱々しく笑う郁。

「悪いか」

心配で、いてもたってもいられない気持ちを見透かされたようで、照れ隠しに腕を組む碧。

「先生…まだ何も思い出せないけど…先生が私の命を助けてくれたんだってね。ありがとう…」

かすれた声で郁が話す。
言葉を伝える郁の唇には、あまり赤みが感じられない。

「お礼は、また元気になってから聞くから。…少し呼吸が辛そうだから、鼻のチューブを抜いて、口からの酸素マスクに変えようか。お喋りできないけど、少し我慢してね」

「うん…先生…ありがとう…」


笑顔で言ったその言葉を最後に、郁は目を閉じてしまった。