郁が発熱している。

当直中の夜中、見回りに行った看護師からそう聞いた碧は、郁の病室へ急いだ。


これまで、記憶の問題を除けば、術後の経過は順調だった。

今回の手術のおかげで全身にしっかり血液を巡らせることができるようになった郁は、息切れやむくみを起こすこともなくなっていた。

しかし、ここに来て恐れていたことが起きた。

「…術創からの感染が起きたのか…」


碧が郁の病室に着き、優しく声をかける。

郁は、発熱の影響で少し呼吸が荒くなり、眠れないでいた。

「郁ちゃん、熱あるんだってね。大丈夫?つらくない?」

碧は郁のおでこに手を伸ばす。

郁は、碧から伸ばされた手から、ふわっと、懐かしい匂いがしたような気がした。

そして、碧の大きな手の平はひんやりとして心地よく、できればずっと触っていてほしいとも思った。

「…大丈夫です…先生呼ぶなんて、看護師さん、大げさだなぁ…」

「こんな熱出てたらしんどいはずだよ。我慢しないで、つらい時はきちんとつらいって言いなさい」

真剣に叱る碧。

「ふふ…ごめんなさい」

郁は力無く笑う。

碧が点滴に薬剤を追加している姿を見ながら、倦怠感と眠気に負け、目を閉じた。