息が上がる。
足が重い。
頭がぼーっとしてきた。

でも、碧に会って話をしたいという一心から、力を振り絞ってスタッフルームに向かって歩く郁。

しかし、すぐに床に膝をついてしまう。

いつからこんな体力が無くなったんだろう、と郁は不甲斐なさを感じる。

病室の心電図のアラーム音で郁が病室を抜け出したことに気づいた藤井と矢野が、廊下でうずくまる郁を見つける。

「郁ちゃん!何してるの!?」

「…お願い…します…竹内先生に…合わせて…」



郁が騒ぎを聞きつけた碧が、息を切らせ、走ってやってきた。


「…郁!何してんだ!」

「碧…先生…今まで…ごめんなさい…」


碧に抱えられ、すぐに病室のベッドに連れ戻される郁。

すぐに酸素を吸入させられる。

「…先生、酸素飽和度が、上がりません」

「酸素マックスで流して!…これ以上下がったら危険だから、挿管の準備もしておいて!」

慌ただしくなる病室。

多数の医師と看護師に囲まれ、処置を受ける郁。


「…私…忘れてて…碧くんを…こまらせて…」

「いいからもうそれ以上喋んな!」

珍しく感情を露わにして怒鳴る碧。


「手術…うける…」

郁の言葉に、碧は耳を疑う。


「昔、約束…したもんね…碧くん…」

「…!郁!…もしかして、思い出したのか…?」

「……たすけて、あお…おねがい…」

瞼が閉じられようとする。

「…郁!目を開けろ!郁!」

完全に意識を失う郁。

徐々に、脈拍数が低下してきた。


「…郁!郁!!……矢野先生、このままだと危険です!今からすぐオペを行います」

「…よし…わかった!みんな、今から緊急オペを行う!藤井さん、オペ室に連絡して!碧、お前が執刀しろ。」

「わかりました!」

自分の役割を思い出し、冷静さを取り戻す碧。

今にも消えそうな鼓動とともに、郁はオペ室に運ばれていった。