体中の痛みと息苦しさ、電子機器の音とともに現実に引き戻され、目を覚ました郁。

あぁ、また帰ってきたんだな。

…いや、帰って来れたんだな。

体はしんどいが、不思議と気分は悪く無い。

心の奥が温かい感じがする。



点滴を交換している藤井が目に入る。

「…藤井さん…」

「…!郁ちゃん!…ごめんね、苦しかったね。昨日の夜、また急に具合が悪くなって……」

藤井が、郁の気持ちを考えながら、伝えにくそうに説明する。

「…本当にごめんなさい。郁ちゃんは望んでいなかったけど、蘇生処置をさせてもらった…。…でも、みんな郁ちゃんを苦しめようとしてるわけじゃないの。竹内先生も…郁ちゃんに生きて欲しいと思って…」

藤井の目から涙が溢れる。

「藤井さん…ありがとう…わかってる…ごめんね…泣かないで…」

かすれる声を振り絞る郁。

「…先生に…会わせて…お願い…」

「…竹内先生は、郁ちゃんの希望を無視して蘇生処置をしたこともあって、担当を外される予定よ。郁ちゃんを助けるための行動とはいえ…恐らく、重い処分も受けることになると思う」

「…そんな…!」
衝撃を受ける郁。

「…とにかく、今は体を休めて安静にしてて。矢野先生が代わりの主治医になる予定だから、郁ちゃんの意識が戻ったって伝えてくるね」

藤井が立ち去った後、郁は頭の中を整理するのに時間がかかった。

私のせいで、先生が…碧くんが…
…碧くんにこのまま会えないなんて、嫌だ。
碧くんに会って、伝えたいことがあるのに…!

いてもたってもいられない郁は、残るわずかな力を振り絞って、体中のコードや管を引き抜き、病室を出て行った。