「清水さん、調子はどうかな」

碧が夕方の診察に訪れた頃、郁は引き続き眠っていた。

先ほど友人の面会があったと看護師から聞いている。

きっと、少し疲れたんだろう。


ベッドサイドに腰掛ける碧。

ふと見ると、長いまつげが涙で濡れている。
涙が乾いた跡もある。

長い間、1人で泣いていたんだろうか。

胸が締め付けられる碧。


まだ高校生で、それにこんな華奢な体で、1人で色々背負っているんだろう。

手術を説得するしかできない自分は無力だ。

彼女を救おうとするのは、エゴでしか無いんだろうか。

良くなる保証もないのに、郁を苦しませようとしている。

…それでも、郁に生きていてほしい。


「たくさん苦しい思いをさせて、ごめんな…」

そう言いながら、碧の大きな手が、郁の頭を撫でる。

郁の温もりが、碧の手に伝わる。


まだ眠ったままの郁を起こさないようにしながら聴診と触診を済ませ、やりきれない思いを抱えながら、碧は部屋を出た。