郁が重いまぶたを開け、まだ働かない頭で天井を見上げる。

泣きながら寝ていたのか、乾いた涙の跡がある。

時計を見ると、夜中の2時だった。
あの後、ずっと寝ていたんだな…でもまだ眠い…

不快な酸素マスクをそっと外す郁。


ふと気づくと、ベッドの横に人影がある。
碧が椅子に座って、腕を組みながら寝ていた。

竹内先生、またクマが濃くなったみたい。

私なんかのところにいなくていいのに。

早く家に帰って、ご飯を食べて、ちゃんと寝ないと、体がもたないよ。

…すぐにでも発作が起きて、厄介な患者が1人減ればいいのにね…


郁は碧の寝顔を見て、心の中で呟いた。

郁は肋骨の痛みを我慢し、重い体をなんとか動かし、碧が風邪をひかないよう、ブランケットを竹内に掛ける。

すると、無意識のうちに、碧の髪を撫で、頬を触ってしまっていた。

自分の行動に驚き、郁はすぐに手を引っ込める。

「んん…?」

碧の瞼が動き始め、急いで布団を被り直す郁。

「あぁ…寝てたのか…あれ、清水さん、起きてたの…?」

「いまさっき起きたところです。先生、こんなところで寝たら風邪ひきますよ?」

「だよな、ごめん…ブランケット掛けてくれたのか、ありがとう。無理させたな」

「先生こそ、無理してる。朝からいたのに、家には帰らないんですか」

「うーん。ちょっと調べ物があって帰れなくて。」

碧は嘘をついた。

先ほどの面談を終え、郁が青白い顔で眠っているのを見ると、心配で帰れなかったのだ。


「そうなんですか?でも、先生の体は大切な体なんだから、ちゃんと休んでください」

いつも遠慮がちな郁だが、碧とは不思議とリラックスして話ができる。

「ありがとう。でも、みんな、"大切な体"なんだよ。寝てるところを邪魔してしまったならごめんね。また朝に来るよ。…あと、酸素マスクは今晩はつけておくこと」

碧はそう言って、郁の酸素マスクを付け直し、医局に戻って行った。


郁は、先ほど碧に触れてしまったことを思い出し、恥ずかしくて赤面した。

言い表せない初めての感情に戸惑いながら、少し温かい気持ちとともに、郁はまた眠りについた。