碧が郁の胸に聴診器を当てる。

「少し胸の音を聞くね。…大丈夫だよ。今度は手をぎゅっと握ることはできる?…上手だね。…よし、じゃあ気管のチューブを抜いて、鼻からに切り替えるよ。少し苦しいけど我慢してね」

碧が処置し、郁はやっと声が出せるようになった。

「…せんせ……ありがとうございます…」

喉がイガイガして、かすれ声で郁は言う。

「お礼なら、君が倒れた時にすぐに蘇生処置をしてくれた施設の先生と、救急車を呼んでくたお友達に言ってね。もし1人でいる時に倒れていたら、命は無かったよ。」

ぼんやりとだが、郁は状況を思い出し、2人に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
きっと今も心配しているに違いない。

「じゃあ、また落ち着いた頃に今の状況を詳しく説明するから。何かあったらナースコールしてね。わかってると思うけど、まだ起きられる状態ではないから、体は起こさないで。蘇生で肋骨も折れてるしね」

碧と藤井が病室を出た後、施設や学校のみんなに連絡をしたいと思ったが、ひどい倦怠感でそれどころではなかった。

主治医になったばかりなのに、竹内先生は泊まり込みまでしてくれていたなんて…

優しい先生なんだな、でも自分の体も大事にしてほしいな…などと考えながら、強い眠気が郁を襲い、郁は眠ってしまった。