データ分析はDXの領域だろう。三角商事にもDX推進の波は来ていて、数年前からチームを立ち上げ実際に成果も出始めているようだった。

だが、実務経験のない俺がいくら知識を詰めたところで深さは出ない。DXの推進には知識と経験が不可欠だ。この領域で余程使えると思わせない限り、勢いがあって成果が出やすいDXには関わらせてもらえないだろう。入り込むには手ぶらというわけにはいかない。何か手土産が必要だ。

俺は御曹司特権を利用して何人かの業務リーダーと話す機会を持ったが、学生の俺にまともに取り合ってくれる人は少なかった。その中でも真面目に俺の話に耳を傾けてくれたのが、アパレル事業部の村木さんだった。

いくつか資料を見てはいたが、実際に話を聞くことで見え方が変わる。データを活用して問題解決するシステムを作りたいと思っていることを話すと、興味を持ってくれたのだ。

食品事業部では既に開発を始めているらしいAIによる需要予測を、アパレル事業部でもいずれ取り入れたいと考えていたらしく、その前段階として丁度いいと思ってくれたのだろう。

定期的に会社に足を運んで村木さんと面談を重ね、資料やデータの分析を進めた。数字を追うのは得意分野だが、村木さんの経験を伴う分析能力なしには俺の頭の中にあることを形にするのは不可能だったとすぐに気づいた。

経験が足りないのはしょうがない。だが俺には隠し持った武器がある。

高校時代、俺は暇潰しで始めたプログラミングにはまり、いくつか資格を取得していた。ゲーム感覚でやり込んでいた時期もあり、恥ずかしながら、オンラインで開催されている大会で入賞してしまう程の腕前になっていたのだ。

その能力を駆使し、分析したデータを元にして、簡単なシステムを構築する。極々単純なものではあるが、それは確実な結果を出した。

従来の予測と比べると、30%近い削減になると出たのだ。これにうまいことAIを組み込めば、更に精度が上がるだろう。

「誠太郎君、凄いね。まさか形になるとは思ってもみなかったよ、、」

「村木さんのおかげです。今回、足りないものが何なのか身に染みてわかったし、やりたいことも見えてきた気がします。本当にありがとうございました」

気づけば、上着がないと寒いと感じる程冬が近づいていた。

仕事に夢中でほとんど学校に行かなくなっていた俺は、アラビア語の授業がなくなってからの半年で、数える程しか彼女に会えていなかった。その数回も見かけた程度。会ったといっていいかはわからない。

とりあえず一区切りついたので、しばらくは卒論をやりがてら、図書室で彼女を待ち伏せするのもありだろう。

こんな調子で本当に彼女の気持ちを繋ぎ止めることができるんだろうかと、不安は募る一方だった。