腕を引いて玄関まで誘導しようとしたら、瑞貴はチラッと家を見上げて、そっと腕を離した。


「いいよ、芙結の顔が見れれば、それでよかったんだし」

「今さら遠慮しなくていいのに」

「遠慮とかじゃないよ」


瑞貴は少し切なそうに笑顔を見せて、うつむいた。

口元は、依然笑っているように見えるけど……。


「芙結の運命の人、見たくないし」


小さく呟いて、顔を上げ、見せたのはいつも通りに明るい表情。


「じゃあ、また明日ね」

「あっ……」


止める隙もなく、駆け出した背中はすぐに小さくなっていく。


「……」


引き止めることが出来なかった右手が、宙に浮いている。


「今の誰?」


背中からかけられた声に振り向くと、いつからいたのか、学さんが立っていた。


「あ……、幼なじみで」

「へえ……」


少し言葉尻を濁した学さんは、

「夕飯、出来たってさ」

と、すぐに家の中に入っていった。


「うん、今行く」


返事をしながら私は、瑞貴の背中が見えなくなるまでそこに立っていた。