無能弁護士

元彼を撒けた時には、私たちは息を切らしていた。

大学を飛び出して逃げ回ったので、ふと空を見上げるともう夕日が沈みかけていた。

「すみません、、こんなに引きずり回して、、」

頭を下げて涙目で謝る。

「すみませんで済むなら弁護士なんていらないんですよ!!」

えっという顔で私は弁護士を見上げた。

「冗談です」

本当に冗談なのかは疑わしがったが、私はとりあえずあははと笑っておいた。

「あ、あの!名前!名前教えてくれませんか?」

「昨日も言ったでしょう?名乗るほどの者じゃないんです、、これ以上関わったら危なそうだし」

弁護士とは思えぬ発言だ。
だがここまでくると私も引けない。

「いいから教えてくださいよ!」

「嫌だ!絶対に嫌だ!」

さすがに一筋縄ではいかない。
私はこの弁護士を褒めちぎる作戦に出た。

「ほんとにかっこいいですね!私とってもトゥンクしてるんです!名前と連絡先を教えて欲しいんです!!」

「そ、そんなこと言っても何も出ませんよ!」

嬉しそうに弁護士はそう言う。ここまで来ればあと一押し。

「でもやっぱり弁護士バッジってかっこいいですよね。努力の証みたいな感じがして、、」

「そ、そうですかね、、まあそうですけど」

彼の口元が緩み始め、右手がスマホを探すような動きを始めた。

「ま、まあ?そこまで言うなら?教えてあげてもいいですけど!」

弁護士は執拗に眼鏡の位置を動かしながらそう答えた。

「でも、その前にあなたの名前を教えてくださいよ」

「え?私ですか?中島 美紀です」

「中島 み〇きみたいですね。ははは」

私は何も笑えなかったが、ここで彼の機嫌を損ねてはいけないので適当に愛想笑いをする。

「ははは」

「あ、僕の名前を聞いてきてたんでしたね。青柳 洋介ですこんにちは」

名刺を渡しながらそう言ってきた。

受け取ってじっくり眺めると、なんかお洒落な筆記体ばかりで何も読めなかった。

「ここ、何て書いてあるんですか?」

「え?こんなのも分からないんですか?」

質問を質問で返されて私は少しムッとした。

「ええ、分かりませんよ。何て書いてあるんですか?」

「ははっ頑張ってください(笑)手に持ってるスマホでググッたらどうですか?(笑) はははっ!あっ、じゃあ僕はこれから彼女と用事があるので!」

コイツ、、、!
絶対自分も分かってないだろ!!!
しかも彼女って!!?

「彼女いるのに私に連絡先教えたんですか!?有り得ない、、、!!」

「それは業務用なので、、、ほら、彼氏と法廷で争いたくなった時に使ってください」

「お前みたいなヘタレ弁護士なんて誰も頼らねえよ!!f〇ck!!!」

私はそこから走り去った。

青柳がぽかんと口を開けているのが最後に見えた。

その日を境に私たちが会うことは無くなった。