愛しい師よ、あなただけは私がこの手で殺めなければー大賢者と女剣士の果しあいー

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 遠い昔、夕立が過ぎたばかりの家の庭で。
 幼いシャンガは泣きべそをかいていた。

「シャンガ、どうしたのかい?」
「おきにいりの、木馬さんがこわれてしまったの」

 木馬は、まず背に割れ目があり粘土で補修されていた。耳には糊のあと。尻尾は新しい毛糸束の中に古い毛糸が散見される。首も胴からはずれかけているのでマフラーがきつく巻かれていた。
 師の優しい心遣いが幾度もシャンガの宝物を繋ぎ止めてくれてきた。

 でも今日ついに、前脚が折れてしまったのだ。その根本の部分も弱くなっており、木片がぱらぱら落ちてくる。

「これはもう直らないの」
「えーん、えーん」
「シャンガ、仕方ないことなんじゃ。形あるもの、いつかみな滅びる。触れられるものに、色づくものに不滅はない」
「……私も? 師匠も?」
「そうじゃ、儂たちも肉体という形に囚われる存在だからの」

 失われることが怖い。
 幼いシャンガは、何もかも、手元の木馬のように壊れて、自分の見知ったものが自分含め消え去る日が怖くなってしまった。

 もう心の中は木馬の破損どころではない。

 ますます泣きじゃくるシャンガを、ゼウラは穏やかになだめる。

「じゃがな、逆に言えば永遠は形のないものの中にあるということじゃ。煌めく夢や、熱い友情、近しいものへの愛」
「えいえん……」
「儂が、お主に抱く親愛、愛情これらを触れる形にも、見える色にもしてやれぬ。けれど、間違いなく、壊れぬ。……永遠たる魂の所有じゃ、肉体に属さないのだから、滅びぬ」
「なら、シャンガからのも! 師匠のことが大切な気持ちが、シャンガの永遠です」

 この時から、その先までずっと。
 シャンガとゼウラの絆は、未来を繋ぐ血にも、何らかの誓いを立てた証の品にもならなかった。
 けれど、触れられず目に見えぬとしても、互いが互いに持った愛情は。

 色褪せも朽ちることもなく、永遠。