「君、それは?」

「え? いえ、その……」


 侍女は封筒をサッとうしろてに回し、なにやら曖昧に微笑んでいる。


「何故隠す? それはクラルテへの手紙だろう?」

「え、ええ……。奥様から職場に手紙を転送するよう仰せつかっておりまして」


 侍女の言葉にクラルテの部屋を覗いてみると、文机の上に小さな魔法陣が敷かれてあるのがわかった。いつでも転送ができるように敷いているものなのだろう。そんなものがあるなんて、俺はちっとも知らなかったが……。


「そんなに急ぎのものなのか?」

「おそらくは……けれど、私は詳しいことはわからなくて」

「だったら、俺がクラルテに直接渡しに行こうか?」


 魔法陣のほうが早いのはわかっている。だが、直接手渡ししたほうが確実だ。……というより、理由をつけて俺がクラルテに会いに行きたいだけなのだが。


「それはダメです! 奥様に叱られてしまいますわ」


 侍女はそう言って、急いで手紙を魔法陣に載せた。けれどそのとき、ふと封筒の表に書かれている文字が目に入る。


「…………え?」


 それはあまりにも思いがけないこと。
 そこに書かれていたのは『ザマスコッチ』という文字だった。