「えっと……将来が絶望的な気がして」



「将来?」



「うん。将来したいことが分からないんだよね。

母さんの言いなりでこの学校に入って、今度は今のご時世、大卒じゃないとダメだから大学行きなさいとか言いだすし、おまけに安定した公務員でも目指しなさいって……

僕の人生、勝手に決められるようになってから、どんどん将来のことを考えるのが苦痛になって。

ホント母さん達は高卒で好き勝手やってきたくせに、どの口が言ってんだよって思わん?」



盗み聞きで僕のことを知った森本さんはただただ呆然と立ち尽くし、その場から離れることができなかった。



「なるほどねぇ」



「このままだと親の言いなりで、将来が決まる気がして、ホント人生、台無しだよね?……はぁ」



「一ノ瀬が苦しんでるのはよぉーく分かった。先生も悩み苦しんだ時期もあったしな!でもな、一ノ瀬……

やるのも叶えるのも全部、お前だからな!」



今田が僕の肩を手で叩き、優しく見守ってくれるその目に、僕は自然と吸い寄せられていく。



「まず一旦、自分の本心をさらけだせ、お母さんから何て言われようが一回聞くな、とりあえず自分が何に興味があるのか、何が好きなのかを理解しろ!いいな?」



今田の『やるのも叶えるのも全部、お前だからな!』という言葉に、大きく僕の心が揺れ動かされていた。



「えっうん」



「そしたら、自ずと自分のしたいことが見つかるはずだし、見つかれば生徒の夢を一歩でも近づけるために、俺たち教師が手助けするだけだから」



「うん。ありがとう。何か先生のこと……少しだけカッコよって思ったわ」



僕は思ったことを嘘偽りなしに、今田に伝える。

今田には他の先生にないものがあって、僕は今田が好きだった。


接しやすさ、ノリがいい、面白い、生徒思い、説明が分かりやすい、時に厳しく時に優しい、綺麗事を言わない、誰にでも平等に接する。


今では担任の先生で心の底から良かったと思えた。