「えっ?」
「私が本当にしたいのは音楽……音楽でみんなを笑顔にしたいんだよね!だから、医療従事者になんてなりたくない」
森本さんの言葉にようやく僕は理解した。
森本さんは将来したいことについて悩んでいたんだと。
「え?そんな素敵な夢があるんなら演奏家?それ目指したらいんじゃないの?」
森本さんの矛盾に戸惑いながらも、平然と答える。
だって、僕と違ってしたいことがあるなら、その夢に向かって突き進めばいいだけの話。
何も悩む必要なんてない。
「一ノ瀬君は簡単に言えるよ!だけど、私は親の敷かれたレールを進んでいかないといけない!自分が本当にしたいことを捨ててまで。」
「いや、別に簡単に言ってるつもりじゃないんだけどね。ただ夢があるならさ……」
森本さんは僕がまだ喋ってる途中にも関わらず、口を開いた。
「分かったような口聞かないでよ!」
「え?」
何でそんなに怒る?
僕は何かを見落としている気がした。
「一ノ瀬くんは、今までもこれからも好き勝手できるんでしょ?親なんて関係なく、自分で将来の夢を決められるじゃない!でも、私は違うの!将来のことで、悩み事の一つもない一ノ瀬くんと一緒にしな……あッ……ごめん」
森本さんの強張った表情は次第に緩み、自分の言い掛けた言葉を悔やんだまま、音楽室から走り去って行った。
僕は静まり返った室内から、
遠のく足音を聞こえなくなるまで聞いていた。
見落としていたことにようやく気づいた時には、もう時すでに遅し。
自分の軽率な発言を悔やんでいた。
そういうことだったのか。
医師家系だから音楽を諦めないといけない。
森本さんの気持ちに気づいてやれなかった。
おまけに森本さんからもらった強烈なカウンターパンチ。
『好き勝手できるんでしょ?』
『親なんて関係なく、自分で将来の夢を決められるじゃない!』
『悩み事の一つもない一ノ瀬くんと一緒にしないで!』
ため息は漏れ出し、しばらく放心状態。
今はしばらく胸に刺さった針が抜けるのを待つしかできなかった。


