○旅館、12時20分、昼食時

遥「一之瀬さん!何食べますか!?」

旅館について、荷物の整理を終わらせた今。

遥と俊斗は昼食をバイキング形式で取る事になった。

旅館に泊まる人達がわいわいと集まるこの場所。

遥と俊斗はお盆を持って歩いていた。

俊斗「俺はとりあえず寿司とか」

遥「私は〜……」

ぐるぐると周りを見渡した遥が、あっ!、と声を上げる。

遥「見てくださいっ!チョコフォンデュが出来るところがありますよ!行ってみたいです」

目を輝かせて俊斗に言った。

俊斗「行くか?」

遥「いいんですか!?行きたいです!」

俊斗「ふっ、じゃあ行くか」

興奮で感情を抑えきれない遥に笑って、俊斗と遥はチョコフォンデュコーナーの所へ向かった。

遥「マシュマロとかプチケーキとか色んなものがありますね!美味しそうです……!」

俊斗「とりあえず全部試すか」

遥「はい!」

マシュマロや小さなケーキをチョコに絡めてお皿に乗せる。

全てチョコフォンデュにした後、またおかずを選びに行った。

遥のおぼんには卵焼きやポテトなど、好きなものを詰め合わせていた。

俊斗のおぼんにはお寿司が多めに乗っていて、少しだけ他のものがあった。

遥「一之瀬さんって甘いものお好きじゃないんですよね?」

さっきチョコに絡めたマシュマロを頬張りながら、遥は俊斗に質問した。

俊斗「甘いものはあまり……」

遥(確かに、一之瀬さんって苦いものとか辛いものを好むイメージがあるなぁ)

遥「じゃあ、あーん、出来ないですね」

しゅん、と落ち込んでいる遥。

俊斗は驚きの表情をしている。

俊斗「遥があーん、てするなら食べる」

遥「えっ、いいんですか!?」

俊斗「当たり前」

そう言って微笑みながら遥の頭を撫でた。

ぐしゃぐしゃと頭をかき混ぜられて、髪の毛が少し崩れる。

遥(一之瀬さんにあーん、できる日が来るなんて……っ!)

またもや目を輝かせて遥は言った。

遥「あーん」

俊斗「ん」

遥のあーんという言葉の後に、俊斗はプチケーキを食べた。

俊斗「あま……」

遥「ふふっ、美味しいですか?」

俊斗「ふつー」

もぐもぐとプチケーキを食べる俊斗を見て、遥は微笑んだ。

遥(なんだか、新鮮。一之瀬さんがケーキを食べているところなんて初めてみた)

その後は好きなものを思う存分食べた。

○部屋、13時15分

俊斗「はい」

遥「あ〜!また負けちゃいました……」

バイキングから戻ってきた二人は、机の前でトランプをしていた。

今のところ俊斗が10勝、遥が1勝という結果。

遥「次は負けません」

俊斗「俺が勝つから」

時間を忘れてトランプに没頭していた。

13時30分……。

14時00分……。

15時45分……。

そしてトランプを終わった時刻は、なんと16時。

遥はヘトヘトになっていた。

その理由は。

遥「一之瀬さん強すぎますよ〜……」

机に項垂れながらそう言った。

俊斗「あーゆーのは運」

遥「それにしても強すぎます」

俊斗「つか、今から何する?」

遥「どうしますか」

する事が見つからずに、お喋りをし続けていた。

遥「それで菜々子が〜……」

俊斗「うん」

菜々子の話やクラスメイトの話。

勉強の話をして時間を潰していた。

そんな時、俊斗がいきなりこんなことを言い始めた。

俊斗「課題とか持ってきてるだろ。勉強しよう」

遥「う……っ。勉強、ですか」

俊斗「何もしないよりかはした方がいい」

遥「はぁい……」

俊斗の提案にあまり乗り気ではない遥。

それでも勉強をする準備を始めた。

俊斗と遥は学年が違う。

だから進むスピードや、勉強の内容が全く違う。

教え合うなんて出来ないから、個人でやることに。

遥「んー……?」

いつも成績は上の方にいる遥は、1つの問題にずっと苦戦していた。

俊斗「どうした」

遥「ここが分からなくて……」

俊斗「ああ。ここはyを代入して……」

俊斗の説明を必死に聞いて、遥は問題を解いていく。

そして苦戦していた問題が解けて……。

遥「と、解けました!ありがとうございます……!」

俊斗「分からないところあったら言って」

遥「はい!」

クールな顔でそう言った後、すぐに自分の課題に取り掛かった俊斗。

隣で課題を進める俊斗を、遥は横目でチラッと見た。

見た瞬間、遥と俊斗の視線がバチッ、と合ってしまった。

遥「……っ!?」

俊斗「あ、悪い」

遥の顔に熱が集まり、どんどん赤くなる。

遥「ちょ、ちょっとお手洗いに行ってきます!」

そう言って大急ぎでトイレに駆け込んだ。

そしてズルズルとドアに背中を押し付けしゃがみこむ。

真っ赤な顔を両手で隠しながらこう思っていた。

遥(二人きりだからいつもより緊張しちゃうよ〜……。しかもあんなに顔が近づいて。し、心臓耐えられないんじゃないかなっ)

頭の中でぐるぐると思考が回る。

でも今からどうするか、なんの話をするか。

そんな事は一切まとまる気配がない。

遥「うぅ〜」

遥(心臓が壊れちゃいそう。これからどうしよう)

そして意を決した表情をして、トイレの扉を開けた。

そして俊斗の元に駆け寄る。

遥「お、おまたせしましたっ」

俊斗「ん」

いつもと変わらない俊斗に、遥はガックリ肩を落とす。

遥(あんなに考えてたのは私だけだったんだ……)

もう一回だけ、そう思い俊斗を1度見た。

そして驚いた。

ほんのりと頬が赤くなっていたんだ。

遥「一之瀬さん、顔赤いですよ」

俊斗「遥だって顔真っ赤」

ぷいっと顔を背けて言った。

遥「なっ」

慌てて鏡を出して顔を見ると、そこにはゆでダコのような自分の顔が。

遥「〜……!」

俊斗「可愛い」

遥「うるさいです……っ」

俊斗「ほら、勉強」

遥「はい」

そして何事も無かったかのように勉強を始める。

でも心は何も無いことが無かった。

遥(可愛いって言われちゃった……。何も無い感じにしてるけど難しすぎる!)

やけになってただ問題を解き続ける。

そんな遥の隣で勉強する俊斗も、心が慌ただしく働いていた。

俊斗(遥、可愛すぎる。2日間も泊まるなんて幸せ超えて死ぬぞ俺)

同じようなことを思いながら勉強に集中した。

○お風呂上がり、10時23分、部屋

チッ、チッ、チッ……。

時計の針が動く音が響く。

2人でドラマを見ていた。

持ってきていた画面の大きなiPadで、ラブロマンスの映画を鑑賞。

そして物語が終盤に差し掛かった時、耐えられず泣き出した。

遥「ふぇ……っ。う、うぅ……。主人公が病気で死んじゃうなんて〜……」

ボロボロと涙が落ち続けていて、遥の視界はぼやけている。

俊斗「泣きすぎ。明日、目腫れるぞ?」

遥「嫌ですけど感動しちゃって……。ぐす……っ」

鼻を軽く啜って、画面に集中した。

でも5分も経たないうちにまた涙が溢れ出した。

主人公『俺の事好きになってくれてありがとう。来世で会おう、愛してるよ』

主人公2『私だって愛してるよ……。病気で亡くなる運命の貴方が、ずっと大好きよ……っ』

涙を流しながら抱き合う2人を見て、遥も勢いよく涙を零した。

そして桜が舞う画面に切り替わった時、やっと遥の涙は収まった。

そしてエンドロールが流れて、音楽も一緒に流れていく。

俊斗「面白かった」

遥「そう、ですね……っ」

涙で目が真っ赤になっている遥は、顔を見られたくなくて、反射的に顔を逸らした。