○2年S組、教室、7月19日朝8時

菜々子「もうすぐで夏休みだね〜」

遥「うん、夏休み遊びたいな」

あと数日で夏休みに入ろうとしているこの頃。

ミンミーンとセミがうるさいくらいに鳴いている。

いつも通り朝早くから菜々子とお喋りをしている時、もうすぐ始まる夏休みの話題になった。

菜々子「遥は一之瀬さんとラブラブするんだよね?」

ニヤニヤしながらそう言った菜々子に、私は真っ赤になった。

遥「そ、そんな予定ある訳ないじゃん……っ!?」

菜々子「え〜?でも毎日、手繋いで登下校してるしラブラブでしょ?」

遥「それはそうだとしても……!」

菜々子「ラブラブなのは認めるんだね♡」

遥「菜々子ったら……」

そんな会話をしていると、廊下の方から悲鳴が上がった。

いい予感なのか、悪い予感なのか、感情がぐちゃぐちゃに混ざっていた。

遥(もしかして……)

頭の中でぐるぐると思考を巡らせていると、ドアの方に女の子が集まり始めた。

きゃあきゃあと言う悲鳴を浴びる人物。

一之瀬俊斗さん、という人物が私の彼氏です。

俊斗「遥」

遥の方を向いてそう言った。

菜々子「行ってらっしゃい〜」

遥「う、うん……っ!」

菜々子に手を振って私は、一之瀬さんの方へ駆け寄った。

遥「一之瀬さん……!」

話しかけた瞬間、俊斗の顔や雰囲気が大きく変わった。

雰囲気は一気に柔らかくなって、表情はパッと笑顔になっている。

俊斗「遥、ここじゃ騒がしいから他の場所行こう」

そのまま俊斗に連れられて、騒がしい教室から移動した。

※空を写して画面が切り替わる

○空き教室

俊斗「静かになったな」

遥「そう、ですね」

ふぅ、と息を着く俊斗とは違い、遥は動揺していた。

その拍子に額には汗をかいている。

遥「な、なんですか」

じーっと見つめられて、挙動不審になる遥。

俊斗「遥がポニーテールしてるの可愛いな、と思って」

遥「!?……ありがとうございますっ」

ふっ、と笑いながら褒められるなんて分からなかったから、照れながら驚いてしまう。

遥(一之瀬さんのせいで暑い……)

遥はボタンを1つ外して、手で顔を仰いだ。

そんな時、俊斗の方を見た遥は固まった。

遥「一之瀬、さん……?顔赤いですよ」

遥(暑いのかな……?)

遥の言葉にハッ、として俊斗は言葉をだす。

俊斗「いや遥がなんかいつもと違うから、さ」

遥「え?どういう事です……か」

遥の言葉を遮って、被せ気味に俊斗は言った。

俊斗「あー、もう遥が可愛いって言ってんだよ」

そう言ってぎゅう、と抱きしめられる。

遥「一之瀬さん……っ。苦しいです」

俊斗の背中をバシバシと叩く遥。

俊斗「ああ、ごめん」

さっと体を離した俊斗に、遥の胸のドキドキは鳴り止まない。

遥「え、えーっと……。な、何か用があったんですか?」

ようやく向き合ってそう言った。

俊斗「うん。今言うことじゃないかもだけどさ、夏休み旅行行かないか」

遥「えぇ……っ!?旅行ですか?」

俊斗「俺の母さんとかが旅行行きたいって言い始めたから」

突然の誘いに動揺してしまう。

遥(旅行……!すっごく行きたい!けど流石に……)

流石に図々しいと思い、遥は断ろうとした。

遥「で、でも図々しいですよ……!私なんかが!」

俊斗「俺が連れていきたいって言ったんだから、いいんだよ」

遥「うぇぇっ!?」

俊斗が誘ったとは思わず、遥はさっきよりも大きな声で驚いた。

遥(一之瀬さんが言ったことなの……!?本当に申し訳ない!)

俊斗に両手を振って訴える。

遥「いやいや……!行きたいですけど申し訳ないですよ……っ!」

俊斗「なんで」

遥「なんでって……そりゃあ誰もが望むことですし、私なんかが行っていいものじゃないです!」

俊斗「誰もが望むことだとしても、俺は遥と行きたいんだ」

俊斗の真剣な表情と、言葉に遥は迷った。

遥は顎の所に手を添えて考え始めた。

遥(そうやって言ってくれるのは嬉しいし、行っていいって事だよね……。でも申し訳ない)

悩みに悩んだ結果……。

遥「い、行かせてください」

俊斗「ん」

やっぱり自分の欲には耐えられなくて、そう答えてしまった。

すると。

-----キーン、コーン、カーン……。

遥「あ、チャイム……!?」

俊斗「サボるか」

遥「い、嫌ですよ……!行きましょう、早く!」

そうこうしているうちにチャイムが鳴ってしまい、遥は俊斗の腕を掴んだ。

ドアを勢いよく開いて、俊斗の腕を引っ張りながら急いだ。

遥(遅れちゃったらどうしよう〜……!)

俊斗「じゃあここら辺で」

遥「あ、そうですね……」

二年生と三年生の階は違うため、すぐにお別れすることに。

遥「じゃあ、頑張ってくださいね……っ!」

満面の笑みで笑った遥を見た俊斗は、遥の右腕を掴んだ。

さっきとは逆になる。

そして強く引っ張って、遥の唇に優しくキスをした。

俊斗「ん、じゃあ」

遥「……」

口元に手を当て、真っ赤になり固まっている遥に、イタズラに微笑んで三年の教室に戻って行った。

遥(不意打ちされた……)

真っ赤な状態で自分の教室へ戻っていった頃には、ホームルームが始まっていた。

○二年S組、ホームルーム

担任「じゃあ静かに読書しておくように」

そう言い教室を出ていった遥の担任を、皆は見送った。

そして姿が見えなくなった瞬間、教室は騒がしくなる。

いつも通りホームルームが終わると、また菜々子がやってくる。

菜々子「顔赤かったけど何かあったの?」

にや〜、と口元を緩めて話しかけてきた。

遥「何も……無かったよ」

最後の方の言葉は小さくなっていて、聞き取れなかったみたいだった。

ただ菜々子には、何かあったことが分かったらしい。

菜々子「もしかしてキスしちゃったとか♡」

遥「違うってば!も、もう!」

手に持っていた本で顔を隠した遥。

その様子に菜々子は大きな声を上げた。

それはクラス中に響く大声。

菜々子「遥、一之瀬さんとキスしたの!?嘘っ!」

菜々子の声で、騒がしかった教室は一瞬で静まった。

遥「な、菜々子……っ」

菜々子の衝撃の一言で、クラスメイト達は悲鳴をあげた。

クラスメイト「「「「えええええっ!?」」」」

遥(菜々子〜!!どうしたらいいの!?)

一気に女の子達が押し寄せてきて、遥は戸惑うばかり。

ハーフアップ黒髪女子「キスってあのキス!?」

ポニーテール茶髪女子「いいな〜!どんなキスしたの!?」

女の子からの質問攻めにあっていると、何故か男の子も集まり始めた。

遥(どうすればいいの……!?助けて菜々子〜)

助けを求めるように菜々子の方を見ると、顔の前で手を合わせて笑っていた。

謝る気がない菜々子にムスッとする。

遥(元はと言えば菜々子のせいなんだから……っ!後で怒っちゃおう)

そして誤魔化そうとした。

遥「キスなんかしてないよ〜……」

でもそんな声は届かず、質問は止まらない。

しばらく質問攻めされて固まっていた。

するとまたチャイムが鳴った。

遥(チャイムだ〜……。救われた)

チャイムに救われて、みんなが自分の席に戻っていく。

みんなが戻ったのとほぼ同時に、担任の先生が戻ってくる。

担任「じゃあ教科書……」

先生の言う通りに教科書を開き、授業が始まった。

○7月23日、終業式

日直「起立、礼」

日直の挨拶が終わり、教室は一気にうるさくなる。

菜々子「今日から夏休みだね〜」

そう。

今日から夏休みです。

菜々子「じゃあまたお泊まりについて連絡するからね」

遥「うん!」

菜々子「あと旅行楽しんで〜」

遥「う、うん……楽しんでくる。菜々子もね!」

菜々子に旅行について教えたらすっごい驚いていた。

菜々子に手を振って、私は席に座った。

遥(一之瀬さんが来るのまだかな?)

もうすぐ俊斗に会えるという喜びで、表情筋がゆるむ。

ふふっ、と一人で笑っていると、廊下から悲鳴が聞こえてきた。

女の子たち「「「きゃあ〜!」」」

遥(あ、来たのかな?もうすぐ会える……!)

俊斗だと確信して、席を立つ。

カバンを持って手にギュッと力を込めた。

小走りで廊下に向かうと、キラキラとオーラを放つ人が。

遥「一之瀬さん!」

声を上げると、勢いよく振り向いた人。

俊斗「遥」

遥(朝にも会ったけど……かっこいいな)

改めてかっこよさを自覚した遥は、無意識に顔が赤くなる。

俊斗「遥、帰ろう」

遥「はい!」

女の子達の波をかき分けて、遥の方へ来た。

手を絡ませてギュッと握られる。

遥(恋人繋ぎ……)

遥「もうすぐ旅行ですね!」

俊斗「ああ、楽しみだな」

遥(夏休みは沢山遊べたらいいな。でも一之瀬さんは受験生だからそんな暇は無いか)

しょぼん、と落ち込んだ遥の頭を、俊斗は撫でた。

俊斗「夏休みは沢山遊ぼ」

その言葉に、遥はパッと顔をあげる。

目からはキラキラした期待が見える。

遥「もちろんです!」

ニコッと笑った遥の耳に、俊斗は顔を寄せる。

遥(な、なに……っ!?)

そして遥にしか聞こえない声量でこう言った。

俊斗「あと沢山イチャイチャしよ」

コソッと言われたその爆弾発言。

俊斗の吐息が少し耳にかかって、遥は繋がれていない左手で耳を抑えた。

遥(いきなりそんなの言われたら恥ずかしい……)

顔から火が出そうなくらい、熱くて真っ赤になる遥に微笑んだ。

遥(最近……笑顔を見せてくれることが多い。嬉しいな)

俊斗「ニコニコしてるけど、どうしたんだ?」

遥「いいえ、何も!一之瀬さんの事を考えていただけです」

俊斗「……?」

俊斗の訳が分からないという表情に、答えるかのように、遥は強く手を握った。

○俊斗の家、一週間後

夏休みが始まって一週間後。

遥「これはどこに置いたらいいでしょうか?」

俊斗「この荷物は俺のカバンに入れていいよ」

明日から二泊三日で向かう旅行の準備をしています。

俊斗「それより遥、自分の準備は?」

遥「もう終わりました!」

俊斗「じゃあ手伝ってくれ」

自分の用意を済ました遥は、俊斗の用意の手伝いをしていた。

遥(明日が旅行なんて……きゃあ〜!)

顔を両手で抑えて赤くなっていると、俊斗がいきなり顔を覗いた。

遥「ひゃっ」

俊斗「何やってんの」

いきなり俊斗の綺麗な顔が迫ってきて、遥はビクッとしてしまった。

遥「だっていきなり……」

俊斗「よし、これで終わり」

遥「で、ですね」

俊斗「遥が手伝ってくれたから早く終わった。ありがとう」

俊斗はふ、と薄く笑う。

遥(一之瀬さんの笑顔はなんだかくすぐったくなる。罪な人だ……っ)

俊斗「明日は楽しみだな」

遥「楽しみです!」

俊斗「遥と同じ部屋で寝るとか心臓壊れる」

ほぼ分からないくらいだけど、うっすらと赤くなった頬を見て遥はニヤッと笑う。

遥「私の心臓は今からでも壊せますよ」

俊斗「なーに言ってんだか」

頭をくしゃくしゃとかき混ぜられて、遥の髪はぼさぼさになる。

遥「一之瀬さんっ!」

俊斗「ふっ」

小さく吹き出して、いつもより大きく笑った。

その笑顔を見ると、遥は何も言えなくなった。

遥(笑顔は反則技ですよ〜……)

むっ、と口を尖らせている遥にまた吹き出す。

遥「何回笑うんですかっ」

俊斗「遥、可愛いなって」

遥「バカにしてますよね……」

でもこうやって笑い合うのがとっても楽しい。

そう思うこの頃。

○次の日、俊斗の車

遥「楽しみですね……っ!」

出発する少し前、遥はニコニコとご機嫌で笑っていた。

俊斗「いつも一緒に暮らしてるけど、一緒に寝ることなんか無いからな」

茶色がかった俊斗の瞳が、遥に向けられる。

ドキッとしてしまい、遥は顔を背けた。

遥(そっ、か。旅行だから一緒に寝るのか……って!)

遥「一緒に寝るってどういうことですかっ!?」

ハッとして、真っ赤な顔をした遥が俊斗の方に向く。

俊斗「俺達が泊まる部屋は二人部屋だから」

遥「へ……っ?二人部屋、ですか」

俊斗「あれ、言ってなかったか?」

マヌケな声を出す遥を見て、珍しく驚いて目を見開いていた。

遥(そ、そんなの聞いてな……いやなんかそんな事聞いたような……?)

ぐぬぬ、と頭を捻って遥は、思い出そうとした。

そして頭に出てきたのは旅行の準備をしている時だった。

○回想シーン、準備中

遥(明日が旅行なんて……きゃぁ〜!)

真っ赤になって頬を両手で抑えている遥。

遥は周りの声があまり聞こえていなかった。

そんな時に俊斗は、一言言っていた。

俊斗「俺たちの部屋は二人部屋だから二人きりだな」

ふっ、と笑っていた俊斗に気づかず照れまくっている遥は聞いていなかった。

○回想終了、元に戻る

遥(あ、あの時もしかして言ってたのかな……?)

確認するために俊斗の方に顔を向けた。

その時、俊斗の綺麗な顔が迫ってきた。

遥の顎にそっと、左手が添えられて、優しく唇がふれる。

遥はいきなりすぎて目を見開いていた。

遥「え……」

キスされた事を自覚するのに時間がかかった。

そして自覚した時には、もう唇は離れていた。

遥「ふ、不意打ちは心臓に悪いですっ」

頭から湯気が出そうなくらい、首まで真っ赤になっている。

そんな遥を見て、俊斗はからかうように笑う。

俊斗「不意打ち……じゃ無かったらいいのか?」

遥「え?」

俊斗「今、やっていい?」

遥「そ、それは……い、やじゃないです」

遥の言葉を聞いて、俊斗は目を見開いた後。

口端を少しあげた。

ニヤッとした表情を見せたかと思うと、遥の腰に手を回した。

グイッと引き寄せられ、遥と俊斗の顔が重なった。

今度は予告していたから、二人とも目を瞑っている。

遥「ん……っ」

前より長い長いキスに、吐息が漏れる。

そして俊斗が離れていった後、遥は息を吐いた。

遥「ぷはぁっ……」

俊斗「顔赤いな」

遥「う、うるさいです……」

夏なのにもっと暑くなった気がして、遥は溶けそうになった。

そんな時、運転手が戻ってきて、出発しようとしていた。

未だに真っ赤な顔をして、手で顔を仰いでいる遥の左手に、そっと手を重ねた。

俊斗「遥、好きだ」

突然の言葉に混乱しながらも、遥も返事をする。

遥「私も好きです。一之瀬さんよりも、もっともっと大好きです!」

俊斗「俺の方が好きだ」

遥「これだけは譲れません」

好き好きと言い合う二人の会話を聞きながら、運転手はニコニコと微笑んでいた。

俊斗「俺は遥が世界で一番大好き、愛してるよ」

遥「私だって世界一、いや宇宙で一番大好きですよ」

俊斗「俺の方が」

遥「私の方が……ってこれじゃずっと続いちゃいますね!先に照れた方が負けです」

俊斗「望むところだ」

ずっと好きなところを言い合う二人。

お互い少しずつ顔が赤くなりながらも、目的地に着くまで言い合っていた。