○前話の続き、門の前。

女の子達「「「ひゃぁぁ〜!?」」」

女子達の悲鳴があがった。

その理由は、手を繋いで登校してきた遥と俊斗を見たからだった。

黒髪ロング女子「な、なんでなんで!!なんで2人が手を繋いでいるの〜!?」

茶髪ボブ女子「遥様羨ましい〜!」

黒髪ツインテール女子「あの二人関わり無かったよね……!?」

お似合いだという声、悲しいという声、羨ましいという声。

色々な声が混ざった悲鳴。

そんな時、後ろから走ってくる男子生徒がいた。

その姿を見た瞬間、遥はびくっと体を強ばらせた。

だって。

男子生徒「お前……っ!俺のこと振ったくせに何付き合ってんだよ!」

以前遥に告白をして、振られた後に頬を叩いた男子だった。

遥(こ、怖い……)

遥の様子がおかしくなっていき、遥を見た女の子達は遥を心配する眼差しを向けた。

女の子1「遥様大丈夫かな……」

女の子2「あの男子が来てからおかしいよね」

ひそひそと話す声が増えてきた時、俊斗の低い声が聞こえた。

俊斗「おい。てめぇ金輪際関わんなって言ったよな?俺の"彼女"に何話しかけてんだよ」

いつもよりうんと低い低音の声。

その低い声は、遥ですらゾッとするような恐ろしい声だった。

男子生徒「ひ……っ」

顔が青ざめて小刻みに震える。

そんな様子を見て、遥は何かを思い出していた。

○1話回想シーン、階段にて

男子生徒の青ざめた顔。

小刻みに震える手足。

恐ろしいと言わんばかりの顔。

○七話、校門前に戻る

遥(なんだか前にも同じような顔をしていた気がする。やっぱり一之瀬さんは私のヒーローだ)

男子生徒「す、すみませんでした……っ!」

ぴゅーんっと走って去っていった。

俊斗「遥、もうあいつが話しかけてきても絶対無視して。あとちゃんと報告してね」

最後の甘く優しい言葉に、私はきゅんっとしていた。

遥「はい!」

遥が笑うと、それに続いて俊斗もふっ、と笑った。

その笑顔を見た瞬間、女の子たちの悲鳴が上がった。

女の子達「「「きゃあああああ!!」」」

そして何事も無かったかのように、遥と俊斗は歩き出した。

遥(私が恐れてた事なんて、起こらない。だって一之瀬さんが居るんだから。後で菜々子に報告しよう)

ふふっと笑って遥は、握っている俊斗の手をギュッと握った。

○2年S組、9時30分

菜々子「で!どうなったの!?」

遥「つ、付き合い始めた……」

菜々子「ひゃ〜!遥と一之瀬さんだったらだーれも文句ないねっ♪」

楽しそうに菜々子は話を聞いていた。

遥「で、でもこれ以上の事はなく……!」

菜々子がとても大きな妄想をしている気がして、遥は止めに入った。

でも菜々子によって止められる。

菜々子「朝一緒に登校してきたのにな〜にも無かったの?何かあったんじゃないの〜?」

遥「う……っ」

図星をつかれて、声が漏れる。

遥の様子を見て、菜々子は更に興奮し始める。

菜々子「やっぱり何かあったんだ!?聞かせて聞かせて!」

菜々子の勢いに押されて、遥は全てを話すことにした。

前告白された男子に話しかけられたこと。

驚いて動けない私を一之瀬さんが守ってくれたこと。

話し終えた時、菜々子は悲鳴をあげた。

菜々子「きゃ〜!!すっごい王子様だね〜♡羨ましい!」

遥「でも本当にこれ以上無いからねっ!」

菜々子「わかってるって〜!あ〜!私も恋したいなっ」

お喋りをしているとチャイムが鳴る。

友達と喋ったり、遊んでいると時間があっという間に感じられる。

先生が入ってきて授業が始まった。

放課後、何かが起こることを知らずに。

○放課後

帰る支度をしている時に、教室のドアから顔を出す一人の女の子が居た。

その女の子に遥は話しかけた。

遥「どうしましたか?」

女の子「あ……っ!遥様!遥様に用事がありまして……」

遥「えっ?私?」

どうして私なんだろう、と思いながらも遥は自分の鞄を持って、ドアに寄っていった。

女の子「ちょっと……来てください」

私の腕を強引に掴んで引っ張っていく。

その様子に遥は少し怖いと感じていた。

女の子「連れてきました!」

○体育館の真ん中

連れてこられたのは体育館。

女の子5人程が待っていて、私を連れてきた女の子は女の子達の方へ寄っていった。

中でも1番強そうな女の子が前へ出た。

真美「先に言っておく。私は真美マミよ」

遥「真美さん……?」

いきなり名前を言われ不思議に思っていると、真美が近づいてきた。

そして思いっきり押され、床に倒れ込んだ。

遥「な、なんですか?真美さ……」

真美「調子乗ってんじゃないわよっ!」

大きく手を振りあげた。

そのまま遥の頬に真美は、強く平手打ちをした。

ジンジンと痛む頬。

遥の目には涙が浮かんだ。

遥(どうして……。なんで?)

遥「やめてください……っ!!」

真美「あんた、ちょっとモテるからって俊斗様に手を出すなんて!許さない」

他の女の子の方を見ると、さっきの女の子もみんな遥を睨んでいた。

その様子を見て、遥は無意識に俊斗の顔が浮かんだ。

遥(一之瀬さん……っ。助けてください)

涙が一筋流れた時、また真美は手を振り上げた。

パシンッと遥の頬に振り上げた手が当たった瞬間。

女の子達全員の体が固まった。

体育館のドアがバンッ、と勢いよく開いたからだった。

ドアのところには、なんと。

遥「一之瀬……さ、ん!」

一之瀬さんが居た。

真美「俊斗様……っ!?」

そして俊斗はスマホを取り出した。

何をするのかと思っていると、カメラを切るシャッター音が聞こえてきた。

カシャッ。

俊斗「遥の綺麗な顔に傷をつけるなんて許さねぇ」

真美「……っ!」

遥の上に馬乗りになっていた真美を、俊斗は思いっきり睨みつけた。

そして真美の体が固まった瞬間、遥は真美の腕を掴んで横に倒した。

そして遥はドアの所で真美を睨みつけている俊斗の元へ、全力で駆け寄った。

そのまま俊斗に飛びつく。

そして俊斗は手を広げて遥を受け止める。

ぎゅっ、といつもよりも強く抱きしめられた遥は、目から大粒の涙が流れる。

遥「一之瀬……さん……っ!」

遥の様子を見て、俊斗は優しく微笑んだ。

俊斗「遥……っ」

しばらく抱きしめ合っていた二人。

そして遥の腕を解いて、俊斗は遥の顔に両手を添えて言った。

俊斗「遥の顔に傷をつけるとか許さねぇ……。遥の顔が腫れたらどうするつもりだよ、クソ」

遥の顔から手を離したかと思ったら、遥を置いて真美達の方へ歩いていく。

遥(私が今着いて行ったらまた叩かれちゃうかもしれない)

恐怖で足がすくんで動けない遥をチラチラと見ながら、俊斗は真美の前に立った。

遥からは見えないけど、俊斗の背中から怒りなどが見えている。

遥(何を言うつもりなんだろう……)

不安で顔が歪んでいる遥。

そんな時。

俊斗「てめぇ俺の遥に何、手出してんだよ」

いつもよりもワントーン以上低い低音の声。

その声には真美も遥も、みんなビクッと体を強ばらせていた。

恐怖に怯えるような顔をしながら、真美は言う。

真美「だ、だって!ちょっと可愛いからって堂々とアピールしすぎなんだもん……!許して……」

ぐすぐすと涙を見せた真美。

でもそんな真美を気にも留めず、俊斗は強く言葉を発する。

俊斗「遥が可愛いのは事実。アピールしすぎとか言うけど、俺から登校しようって言ったしこれを許すわけないだろ。それに……」

沙羅「真美は悪くないです……っ!」

俊斗の言葉を遮ったのは、沙羅サラだった。

真美「さ、ら……?何言って……!」

夏羽「そうです!私達が言ったんです……!」

沙羅の言葉に夏羽ナツハも話に乗ってきた。

でもそんな沙羅や夏羽の言葉を無視し、俊斗は言う。

俊斗「遥の顔を叩いたのは事実だし、誰が悪いとか決めたいわけじゃねぇ。とりあえず遥に謝れよ」

黙り込んでいた真美に吐き捨てた。

真美「遥さん、ごめんね」

遥「い、いいえ……もう大丈夫です」

俊斗「とりあえずこの写真は担任に見せるから。じゃあ遥、保健室行こう」

立ち尽くす女の子達を放置して遥の手を取った。

そして手を絡ませて恋人繋ぎになる。

遥の胸がドキッとした時、足に痛みを感じた。

遥「い……っ!?」

遥の声に俊斗は振り向いた。

俊斗「どうした?頬痛いか……?」

遥「い、いいえっ!痛くないです!でも、倒された時に足……捻っちゃったみたいで」

俊斗「……」

無言で手を離した。

そして膝の下に手を入れて、背中に手を添えた。

ふわりと遥の体が宙に浮いた。

遥「一之瀬さん……!?」

俊斗「足。怪我してるんだろ」

遥「で、でも歩けますよ?」

俊斗「強がるな。俺にもそう言っただろ」

遥「……っ」

俊斗が優しく微笑んで遥は何も言えなくなった。

遥の顔は真っ赤に染まっている。

そんな中、真美や沙羅達の視線を感じていた。

後ろで泣きじゃくっている声が聞こえる。

沙羅「ふぇ……っ」

夏羽「俊斗様ぁ……うっ、うぅ」

真美「夏羽、沙羅ごめんね」

遥(私がみんなをこうしてしまっているのかな。なんだか申し訳ない)

そして俊斗の服をきゅっ、と掴んだ。

それに気づいた俊斗は足を止める。

俊斗「遥、どうした?」

俊斗に上から見下されて遥の胸はドキドキと鳴る。

遥「先生に写真を見せるのやめませんか?」

俊斗「は?遥、あいつらに顔何回も叩かれたんだぞ」

遥「でも私そんなことしたい訳じゃないです……っ!謝って貰ったしいいんで……」

俊斗「それでも」

遥の言葉を遮って強く言った。

俊斗「俺は遥が大事なんだよ。何よりも。遥が大丈夫でも俺は大丈夫じゃない」

そんな俊斗の様子を見て、遥は言葉が出なくなった。

だって俊斗が苦しそうな顔をしていたから。

遥「すみません……」

俊斗「遥にそんな顔させたい訳じゃないけど、俺はあいつらを許したくないんだよ」

そして遥は1度口を開いたが、すぐに閉じた。

遥(一之瀬さんが心配してくれているのに、それを否定する必要はない)

そう思ったから。

罪悪感で遥は唇を噛み締める。

それに気づいて俊斗は遥の頭を、ぽんぽん、と撫でてまた歩き出した。

遥の顔に熱が集まる。

そうしているうちに保健室に着いた。

○保健室、夕方5時

コンコンとドアをノックし、ドアを開ける。

俊斗「失礼します」

でもその返事は帰ってこない。

遥「先生……居ますか?」

俊斗「いや、居ない。とりあえず手当てしよう」

そう言いながら遥をソファへと下ろした。

下ろした直後に、俊斗は冷凍庫から氷をだした。

そして紙に包んで、遥の頬に当てる。

俊斗「これで冷やしとけ」

ぶっきらぼうにそう言う俊斗に、遥の心臓は跳ね上がる。

遥(一之瀬さんはサラッとこういう事するから、心臓に悪い…!)

遥が一人でオドオドしている中、俊斗はテキパキと動いて手当ての準備をしていた。

さっきよりも大きめの氷や、湿布。

俊斗「足出して」

いきなりそう言われてビクッと体が固まった。

遥「い、いいえっ!?自分でやります!」

俊斗「なんでそこで引くんだよ」

遥「だって恥ずかしい……です」

かああっと赤くなった遥は俯いた。

俊斗「……」

口を開けて固まっている俊斗。

でもはっ、として動き出した。

そして俊斗はこう言った。

俊斗「遥、こっち向いて」

そう言われ、遥はその通りに前を向いた。

そして。

前を向いた瞬間、俊斗の顔が近づいてきて……。

そのまま俊斗と遥の顔が一気に近づいた。

そっ、と優しく唇が触れる。

そして俊斗が離れていった。

ほんの一瞬の出来事。

遥(い、ま……。一之瀬さん、私にキスした?)

そう自覚した瞬間、今までとは比べ物にならないくらいの熱が集まった。

俊斗「ほら、もう恥ずかしくないだろ」

遥「それとこれは別で……っ!」

俊斗「はやく」

遥「……っ」

ソファに座っている遥は、俊斗に上目遣いをされた気がして口を閉ざした。

遥(一之瀬さんの上目遣い!なんだか、可愛い……っ!)

いつもと違う雰囲気に、遥はきゅんっとしていた。

遥「は、はい……」

そして、大人しく靴下を脱ぐ。

俊斗の手が優しく遥の足に触れ、ビクッと体が強ばった。

包帯をクルクル巻かれて手当てをされた。

俊斗「ん、終わった」

遥「ぷはぁ……っ」

俊斗「え、なんで息止めてんの」

ぜぇ、はぁ、と遥は息を乱している。

呼吸が元に戻ってきた時に、遥は突然言った。

遥「なんで私が体育館にいた事、分かったんですか?」

俊斗「教室に遥迎えに行こうとしたけど、遥居なくて遥の友達に聞いた」

遥「その友達って……誰ですか?」

俊斗「いつも一緒にいる菜々子?って言うやつ」

遥(なんで菜々子が知っているんだろう)

疑問に思っていると、すぐにその謎は解けた。

俊斗「あいつに聞いたら、女の子に連れられてどこかに行った、って言ってたから探した」

遥(私が連れていかれている時に、探してくれてたんだ……)

俊斗「探し回ってたら体育館から音が聞こえて、もしかしてと思ったら居た」

遥「そう、だったんですね。私のせいでごめんなさい。ありがとうございます」

ぺこりと頭を下げた遥の頭を撫でて言った。

俊斗「別に。そんなに疲れてないしすぐ見つかったから。とりあえず帰ろう」

遥にそう言って、手を差し出した。

手を取って、俊斗に引っ張って貰い、立ち上がる。

ただ足がズキンと傷んで顔を歪める。

俊斗「遥は怪我してるから、俺の背中に乗って」

遥「え?」

俊斗「送迎車もう近くまで来てるから、そこまでおぶってく。だから、ほら。乗って」

遥「お、重いですよ……」

俊斗「いいから」

遥(恥ずかしいけど、これじゃあ歩けそうにない……)

顔をほんのり赤らめた遥は、恥ずかしげに言った。

遥「では……お言葉に甘えて」

俊斗の背中に乗ると、俊斗は立ち上がって歩き出した。

遥「ちょ、ちょっと待ってください」

俊斗「なに、遥」

遥「私ってこと……バレちゃいますよね?」

俊斗「あぁ、そうだな」

そう言って一度遥を下ろした。

そして俊斗は自分の着ていたパーカーを脱ぎ、それを遥の頭に被せた。

俊斗「ほら、これならバレないだろ?」

残っている俊斗の温かさや匂いに、ドキドキと胸が鳴っている。

胸に手を当てて鼓動の速さを感じる遥。

俊斗「ほら、乗って」

遥「はい……っ」

再度、俊斗の背中に乗って門へ向かい始めた。

遥をおぶって歩く俊斗を見て、女の子達は騒ぎ出した。

茶髪ボブ女の子「俊斗様……!?」

黒髪三つ編み女の子「誰をおんぶしているんだろう」

遥はバレたくなくて俊斗の背中に顔を押し付けた。

遥「一之瀬さん……っ」

コソッと俊斗の耳元で話しかけると、俊斗は肩を震わせた。

遥(一之瀬さんどうしたのかな?)

そう思った時、俊斗は遥の方を振り向いた。

俊斗「耳元で話すのやめて。後で話そ」

無意識に耳元で話していたことを理解した瞬間、ドキーッと胸が大きく鳴った。

ハッとして俊斗の耳を見た。

ほんのり赤くなっていて、照れているのかなと思った遥。

遥「ふふっ」

俊斗「何」

遥「いいえ何もないですよ……っ」

ふふっ、と笑っている遥を不思議に思いながら、俊斗は門へ歩いた。