餃子を作り終えて、俊斗の部屋に向かった。

コンコンとドアをノックして声をかける。

遥「餃子出来ました!」

ゆっくりとドアが開いて俊斗の顔が覗いた。

俊斗「早」

たった一言呟いて部屋から出てきた俊斗は、すごくラフな服装をしていた。

遥(いつもしっかりと服を着ているからなんだか新鮮……)

いつもの制服やきっちりした服装ではない俊斗に、遥はドキドキとしていた。

階段を降りてご飯を食べようとした、その時。

がチャリと玄関のドアが開いた。

結衣「遥〜!ご飯食べ終わった?」

遥「ご、ごめん!今からなんだ……」

しょぼんと項垂れて俯いている遥を見て、結衣は言った。

結衣「全然大丈夫だよ!!ただ友達来るから気になるかなーっと思って」

遥「全然気にならないよっ」

慌てながら遥は答えた。

結衣はご飯を食べたあと、外に出てお花に水をやっていたらしい。

結衣「じゃあテレビ見とくから」

俊斗「じゃあ食べるか」

遥「はい!」

2人で手を合わせた。

遥、俊斗「「いただきます」」

いただきますと挨拶したあとに餃子をかじった。

肉汁が溢れてきて、我ながらいい感じに出来たと思っている遥。

チラッと俊斗の方を見ると、餃子を一口でパクリと食べた。

俊斗「……!」

目を輝かせて頬張っている。

遥はそんな様子にほっとした。

遥「味大丈夫ですか……?」

俊斗「遥の作る飯ってこんなに美味しいんだな」

サラリと告げられ、遥は少し恥ずかしげに言った。

遥「そ、そんな……!大したものじゃないです!」

会話しながら食べていると、結衣が話に割り込んできた。

結衣「遥のご飯って本当に美味しいよね〜!俊斗ったら惚れちゃうんじゃないのー?」

結衣のそんな一言で、遥と俊斗は固まった。

俊斗「あ、ああ。そうかもな」

動揺しながらもそう答えた俊斗に遥は真っ赤になった。

遥「そそそそ、そんなことないよ!」

結衣「えぇ〜!2人が付き合ったら私嬉しいんだけどなー」

遥「冗談はよしてよ……〜!」

結衣「あはは!冗談が過ぎたね〜!」

えへへ、と言いながら結衣は頭をかいている。

箸を持って食べ始めた。

食べ終わった後、結衣の友達が3人やってきた。

仁奈「やっほ〜!」

梨花「結衣来たよーん」

穂乃香「結衣の家だ〜」

仁奈は金髪ロングで毛先を巻いている派手な印象。

梨花は黒髪ボブで大人しそうな雰囲気。

穂乃香は長いピンク髪をツインテールにしていて、メイクが濃い量産型系の女の人だった。

遥「初めましてっ」

ぺこりと頭を下げた遥に仁奈が反応した。

仁奈「初めまして〜!小坂仁奈コサカニナです!」

続いて梨花と穂乃香も挨拶をした。

梨花「村田梨花ムラタリカです」

穂乃香「南穂乃香ミナミホノカです〜」

遥は3人全員と握手をして、改めて自己紹介をした。

遥「初めましてっ!高校三年の雪乃遥です……!」

緊張しがちに頭を下げ、顔を上げた。

みんなニコニコとしながら微笑んでいる。

遥(みんな優しそうでよかった……)

3人「遥ちゃんよろしくね〜」

優しく迎えてくれた3人に涙ぐみながら、遥は答えた。

遥「はい……!」

※場面が切り替わる

○次の日、リビング

朝6時に起きて、遥はリビングに居た。

メイドさんや執事の方、お手伝いさんなど色んな人が朝から働いていた。

そんな中、遥はキッチンで料理をしていた。

もちろん料理人の人と一緒に。

遥「これはこうですか?」

料理人「そうそう!その後にこれを振りかけたら完成だよ」

料理を教えて貰いながら、俊斗と結衣の朝食を作っていた。

※回想シーン

挨拶した後、結衣達4人は結衣の部屋へ行った。

その4時間後、友達は帰っていった。

今日から少しの間この家に泊まると言っていた結衣は、自分の部屋で寝ている。

※回想シーン終了

お皿に作ったご飯を盛り付けながら、昨日のことを思い出していた。

そんな時、榊が眠たそうに目を擦りながらやってきた。

榊「遥様、今手が空いている人が居ないので、良ければ俊斗様を起こしに行って貰えないでしょうか」

いきなりの事で驚きながらも返事をした。

遥「は、はい!もちろんです」

すぐにエプロンを脱いで2階へ駆け上がった。

俊斗のドアの前で立ち尽くした。

遥(そういえば一之瀬さんの部屋に入らないとだよね……!?今更だけどすっごく緊張してきたっ)

胸に手を当てて、ふぅ、と息を吐き意を決してドアに手を当てる。

コンコンっとドアを叩いて返事が来るか待っていた。

でも来なかった。

勝手に入るのもどうかと思い、榊に聞こうとして1階に降りていく。

遥「榊さん!一之瀬さんのドアをノックしても返事が来ないんですけど……どうやって起こしたらいいんですか?」

榊「返事が来なくてもドアを開けて大丈夫です」

それもどうかと思いながらも返事をする。

遥「ありがとうございます!起こしてきます」

またまた2階へ登って、一応ドアをノックした。

でもシーンとしているだけで、返事は来なかった。

遥「で、では失礼します」

ドアノブに手をかけてドアを開けた。

目の前に広がるのは、黒と白で統一された綺麗な部屋。

遥(すごく綺麗で落ち着いた部屋……。すごい居心地がいい)

そんなことをしている場合じゃないと思い、俊斗の寝ているベッドに近づいた。

遥「あ、朝ですよ〜……。起きてください」

肩に手をかけて少しだけ揺らした。

自分から触れることなど無かったため、心臓がバクバクとなっている。

遥(起きない……。ってあれ?)

俊斗の目元は少し濡れていた。

疑問に思い、部屋を見渡した。

そしてすぐに体が固まった。

俊斗の机に手紙らしきものが置いてあったから。

しかも封筒から出されていて、内容が見えていた。

あまり見ないようにした、つもりだった。

でも一言見えてしまった。

『俺は彼女を追いかけて消えるけど。俊斗に出会えてよかった。3人ですごした日々は忘れない。ありがとう俊斗。また会おうな!桜木雄大サクラギユウダイ』

それは、相手が亡くなったかのような文章だった。

自分も無性に泣きたくなって、目が潤んだ。

でもそれより先に起こすしかないと思い、目を擦った。

そして俊斗のベッドの前に再度立つ。

もう一度肩に手をかけて、さっきよりも強く揺らす。

遥「起きてくださいっ!!」

そんな声に気づいて目が開いた。

ゆっくりと重たそうに瞼を開いてこちらを見る。

俊斗「……っ!?は、はる……かっ」

遥「もう起きないとですよっ」

俊斗「あ、ああ。分かった、すぐ起きる」

顔を赤くしながら動揺している俊斗に、遥は首を傾けた。

遥「では失礼します……!」

扉が音を立てて閉じて行った。

一階へ降りると、既に朝食が盛り付けられていてお皿が並んでいた。

遥「すみません……っ!一之瀬さんを起こしに行ってました……」

料理をしていた料理人達にそう謝る。

そんな様子の遥に、料理人達は優しく微笑んで答えた。

料理人「いえいえ。大丈夫ですよ」

遥「う、うぅありがとうございます……っ」

申し訳なくなってきてどんどん俯いていく遥に、足音が近づいてくる。

それに遥は気が付かなかった。

ポスッと頭の上で音がする。

いや、頭から音がする。

後ろを振り向くと、寝起きの俊斗が遥の頭の上に右腕を乗せていた。

遥「い、一之瀬さんっ!?」

俊斗「はよ」

遥「おおおおお、おはようございます!」

さっき会ったばかりだというのに、オドオドとしてしまう遥に俊斗は笑った。

俊斗「遥なんでそんなに動揺してるの?」

くすくすと笑ってきた俊斗に遥の顔は熱を帯びる。

遥「いきなり一之瀬さんが出てくるから……っ」

俊斗「足音鳴らしてたけどな」

遥「聞こえてませんでした……」

会話に夢中で周りを見ていない2人。

そんな様子を微笑ましく眺めるメイドや執事達。

賑やかな朝が始まった。

○俊斗の部屋、昼前

俊斗「遥」

遥「はいぃ」

俊斗「これ見たの?」

遥「え……っ」

どうしてこうなったのだろうか、そんな考えが遥の頭に浮かぶ。

遥(どうしていきなりこうなるの〜!?)

遡ること1時間前。

○リビング、1時間前

回想

遥「ん〜!美味しいです!」

遥と俊斗はリビングで朝食を食べていた。

そんな時、俊斗がこう言った。

俊斗「榊さん、あいつからの手紙ってもう届いてませんか?」

榊「はい、もう届いておりません」

遥(手紙……?なんの事だろう。あれ、そういえば手紙……ってまさか)

そう考えが浮かんできて、それを口に出してしまった。

遥「桜木雄大さんですか……?」

俊斗「は?」

榊「え……?」

そんな2人の反応に遥は、しまったと言わんばかりの顔をした。

遥「ご、ごめんなさいっ」

榊「いや、いい……」

いいよ、と言おうとした榊の言葉を俊斗が遮った。

俊斗「遥、飯食べ終わってやる事終わったら俺の部屋来て」

いきなり部屋に来てと誘われ、遥はびくっとする。

遥(絶対に手紙のこと聞かれちゃう。どうしよう、勝手に見たとか思われちゃったら……)

そう思うと怖くなっていって、遥は断ろうとした。

でも口は思うように動かなくて……。

遥「分かり、ました」

場面が切り替わる。

○俊斗の部屋

そして今に至るということ。

俊斗「で、なんで雄大のこと知ってるの?」

遥「そ、れは……」

遥(正直に言った方がいいってわかってる。でもそのまま言ったら傷ついちゃうと思う)

俊斗「まさかさ、あの手紙全部読んだ?」

遥「全部は読んでないです……!ただ、見えちゃっただけで」

そう言った瞬間、俊斗の目から光が消えた。

遥(や、やばいんじゃないかな。私。大事な手紙を読むなんて最低だ)

自己嫌悪感に襲われて思わず視線を逸らす。

俊斗「見られたのなら仕方ないか。今から話すことは全部本当、信じて」

遥「はい……っ!信じます!」

俊斗「俺と雄大が出会ったのは中二の時」

俊斗の思い出話が始まった。

○俊斗side、過去の回想シーン

俺たちが出会ったのは中1の入学式。

風が吹いて桜が舞う春。

門を通って体育館へ歩いていく時、迷子らしき男子がきょろきょろと周りを見渡していた。

俊斗(あれは……迷子の新入生?何やってるんだろうか)

そんな時、謎の男子が話しかけてきた。

雄大「あの!体育館ってどこから行けばいいのですか」

俺も新入生だし、と思いながらも案内することに。

俊斗「一応俺も新入生なんだけど」

そう言った途端、男子は驚いた顔をして俺の顔を指さした。

雄大「えっ、え!?中3とかそのくらいじゃねぇの!」

俊斗(いきなりタメ語になるな。マジでなんだこいつ)

雄大「コホン、俺は桜木雄大。お前は?」

図々しくて失礼な態度に呆れながらも、俊斗は冷や汗をかきながら答えた。

俊斗「一之瀬、俊斗」

名前を聞いた途端、嬉しそうに声を上げた。

雄大「おぉ!!俊斗か!いい名前だな」

いきなりの名前呼びに俊斗は少し困惑していた。

名前で呼ばれたから自分も呼んでいいのかと思い、雄大、と名前で呼んだ。

俊斗「雄大、お前初対面の相手に失礼過ぎないか」

雄大「いーや!俊斗の方が失礼だね!俺のことは雄大様と呼ばないとダメだろうが」

自分が1番かのように言う雄大の話が、俊斗にとってなんとなく心地よく感じていた。

俊斗(俺は友達なんか、喋る友達なんていらないのになんで……心地よく感じるんだろ)

そんな不思議な想いを抱えていると、チャイムが鳴る。

雄大「やっべぇ!体育館早く行くぞ!」

俊斗「お前体育館の場所わかんないだろ。行くぞ」

そう言って俺は走り出した。

その後ろを笑顔で着いてくる雄大に、初めての不思議な感情を抱いた。

それから半年程経った時、雄大がこんなことを言い始めた。

雄大「俺さー来月転校するんだよ!」

俊斗「は?」

嘘だと思い、俺は雄大にこう言った。

俊斗「来月っていきなりすぎるだろ。本気か?」

俊斗(別に雄大が大事で、離れたくない訳じゃない。でも嘘だと言って欲しい)

そう思う俺自身にビックリした。

雄大「おう!本気!転校……つーか何十年、何百年経っても会えないかもしれない所に行くだけだ!」

その謎の言葉に疑問を抱いた。

俊斗「どこだよそれ。教えろ」

雄大「俺が転校して5年から6年後くらいに分かるぞ多分」

その謎が残ったまま、1ヶ月が経った。

先生「桜木が今日転校するからみんなさよなら言おうな〜」

先生の優しい微笑みと柔らかな言葉で、空気が和む。

俺の近くの席に座る雄大はニコニコしている。

どうやら転校することに嫌とかそんな考えが無いらしい。

放課後になり、雄大が俺の席にやってきた。

雄大「明日から俺居ないから寂しいだろ?頑張れよ!」

まるで他人事のように、そう言う雄大に嫌な予感がしていた。

雄大「じゃあまたな!あと今から好きな子に告ってくるわ!全部終わらして消えるぜぇ!」

『消える』その言葉は、転校ではなくもっと重くて別の意味がある気がした。

でもその時、答えは出なかった。

そうして5年以上経った高校三年の春。

遥との同居が始まって少し経った時、ある手紙が届いた。

○遥side、現代に戻る、

俊斗「その手紙がこれ」

手紙を渡されてそれを受け取る。

手紙の内容を見ていたら、涙が自然と溢れてきた。

遥「消えるぜって……っふ、うぅ……」

消える、という転校とは違う意味を知った時、一之瀬さんはどう思ったんだろうか。

親友だった人を失って一之瀬さんは……どうやって過ごしてきたのか。

自分まで苦しくなってきて嗚咽が漏れる。

重たい空気が流れ始めて私たちは目を合わせ、体を向き合わせた。