榊「……家の構図は理解出来ましたか?」

遥「はい」

遥は俊斗の家の構図について教えられてるところだった。

明日からこの家に住むということで、広い家の中を教えられた。

遥(外見だけで分かっていたけど……本当に広いおうちだな)

俊斗「今日は遅いから送る。明日からよろしく」

遥「はい……っ」

遥(明日から同居するという実感が少しずつ湧いてきたかも……)

車に乗り込む遥と俊斗。

車が動き出して、遥は窓から外を眺めていた。

遥(明日から同居。学校の女の子達にバレたらどうなっちゃうんだろう)

家に近づくにつれて、帰りたくなくなっていく遥は俊斗に話しかけた。

せめて今の時間だけでも話したいと思って。

遥「あのっ」

俊斗「なんだ」

気になっていたことがあった。

遥「服とか洗濯物ってどうしたらいいんですか?」

遥(下着とか汚れた服とか……どうしたらいいのだろう)

不安げに聞く遥を見て、俊斗は優しく微笑みながらこう言った。

俊斗「大丈夫。洗濯をしている人に頼んで遥の服は分けてもらうように言ってるから」

その回答に胸を押えてほっとした遥。

遥(よかった。これなら安心して過ごせるかも)

榊「遥様の家に着きました」

遥「あ……」

幸せだった時間はあっという間。

その言葉を心の中で繰り返す。

遥(もう……終わっちゃったのか。でも明日からは一緒だし大丈夫かな?)

俊斗「じゃあまた明日」

遥は車から降りて、窓から顔を出して手を振る俊斗に笑顔を向けた。

遥「はい……っ!また明日です!」

俊斗は微笑んでから窓を閉めた。

その後すぐに車は動き出す。

車が見えなくなるまで、手を振って見送る遥。

遥(早く課題を終わらせて夕飯を作らなきゃ)

幸せな気持ちでキッチンへ向かった。

○次の日、午前8時、俊斗の家

俊斗「一通りの移動は終わったな」

腰に手を付いて一息ついている俊斗の隣には遥が居る。

遥「本当にお料理したりして大丈夫なんですか……?」

心配だと言わんばかりの表情を見て、俊斗はこう言った。

俊斗「いくらでもしろ」

遥「はい……っ」

俊斗からの返事に笑顔を向けた遥は、すぐに自分の部屋となる場所を見渡した。

遥(それにしても広い部屋。私一人で使ったら勿体ないくらいに)

本当に広い部屋だった。

用意されたベッドは2人用。

自室に大きなテレビ。

全てのものが大きくて高級感のあるもののため、遥はカチコチに固まっていた。

俊斗「じゃあ後は自由に過ごしてくれ」

遥(え……この部屋自由に使っていいの?というかもうお昼だしご飯……作っていいかな)

一人で思い悩んでいる暇は無いと思った遥は、俊斗の部屋に行きドアをノックした。

俊斗「はい」

がチャリとドアを開けて出てきた俊斗に、遥はドキッとする。

遥(なんだか同居してる感じがきて落ち着かないな……)

遥「食材買ってきてご飯作ってもいいですか?」

俊斗「いいって言ったんだからいいんだよ。俺も腹減ったから作って欲しい」

遥(一之瀬さんの分まで!?こんな御曹司のお口に合わないかもだし……)

俊斗「俺は遥の作ったものはなんでも食べるから安心しろ」

そんな言葉に遥は安心して頷いた。

遥「はい……!ありがとうございます!失礼します」

長く居座ると邪魔になると思って、足早にその場を去る。

遥(早く買い物に行こう。一之瀬さんを待たせる訳には行かない)

すぐにカバンにスマホと財布を入れて家を出る。

遥(一応行ってきますって言えばいいのかな?)

遥「行ってきます!」

勇気をだしてそう言った。

すると掃除をしていた人が返事をしてくれる。

「行ってらっしゃい~」

こんなやり取りは久しぶりすぎてぽっと赤くなる。

スーパーに歩いて向かった。

今日のお昼ご飯は何にしようか考えていた時。

すれ違った人の顔に見覚えがあった。

遥(あ、れ……?あの人結衣ちゃんに似てる?)

バッと後ろを振り向いてその人を追いかける。

その人の手には……大きな花束があった。

遥(こんなのただのストーカーじゃん……!結衣ちゃんじゃなかったらどうするの!)

自分の気持ちに訴えかけるが、足は止まらない。

遥(やっぱり……結衣ちゃんじゃないのかな?結衣ちゃんだったらいいな)

密かに期待しながらついて行くと……俊斗の家の敷地に入っていった。

遥「あのっ!」

思わず話しかけてしまう。

大人の女性って感じがする人だった。

でも顔とか雰囲気は変わっていない。

?「はい?誰ですか?」

遥(声も似てる。やっぱり!)

遥「結衣ちゃんですか!?」

結衣「え……?なんで知って」

困惑した様子の結衣に遥は喜んだ。

遥(やっぱり結衣ちゃんだ……!でもなんで花束を?)

遥「覚えてない……?小さい頃に遊んだ雪乃遥なんだけど……」

結衣「えぇっ?遥!?」

さっきよりも混乱した様子に遥は、上機嫌になる。

結衣「ひ、久しぶり!でもなんでここに……?」

遥「実は……」

遥は同居することになった事、その経緯などを教えた。

結衣「そういうこと……ね!俊斗と知り合いなんだ?」

遥「ん……?名前呼び?」

結衣「あれ?俊斗は私の弟だよ」

遥(弟っ?結衣ちゃんに雰囲気が似てると思ったら……弟だったなんて!てことは幼い頃の俊くんは一之瀬さん?)

驚きでポカンと口が開いて固まる遥。

そんな様子を見て結衣は笑った。

結衣「あははっ!遥面白い!なーにその顔」

そう言ってほっぺをつつかれた。

遥(結衣ちゃんと会えたのはいいけど……ご飯っ!)

遥「結衣ちゃんごめん……!今から買い物行くの……」

申し訳なくなって頭を下げた遥。

結衣「大丈夫だよ!まだ家に居るから」

目をうるませて手を合わせる。

遥「ありがとう……!じゃあまたね!」

手を振ってスーパーに向かう。

そこで気づいた。

遥(ここ……どこ?)

遥は迷子になってしまった。

キョロキョロを辺りを見渡していると、後ろから俊斗の呆れた声が聞こえた。

俊斗「今日来たばっかりなのにスーパーの場所なんて分かるわけないだろ?一緒に行く」

突然現れた俊斗にドキッとして振り向いた。

遥(一緒に行くって……?)

言っている意味が分からず頭を傾けた。

俊斗「スーパーまで一緒に行く」

遥「えっ!全然いいですよ……!」

俊斗「俺がいないとどこか分からないだろ?」

図星をつかれた気がしてビクリと固まる。

遥(そうだけど……一之瀬さんと一緒にいるところを見られたらどうなることか)

でもこのままじゃ迷子になるから、着いてきてもらおう。

遥「じゃあお願いします」

俊斗「はい」

そうして並んで歩き出した。

私たちが並んだら多分、他の人からは不釣り合いだって言われるんだろう。

やっぱりこの人を好きになっちゃダメだったみたい。

でも好きな気持ちにブレーキは無かった。

遥(一之瀬さん……好きになってごめんなさい。どうしても貴方が好きです)

○お昼時、スーパー

ガヤガヤとしたスーパーに入って一之瀬さんとはお別れ、かと思っていた。

スーパーに着いてからも、一緒に来てくれる気遣いに好きが積もっていく。

餃子でも作ろうかな、と思いネギなど食材をカゴに入れている時、遥はふと思った。

遥(何だかこれって夫婦みたいだな……って!なんてことを考えて……!?)

1人で赤くなり、モジモジしながらカートを押す遥に俊斗はこう言った。

俊斗「なんか夫婦みたいだな」

たった一言、それだけを口にした。

遥「!?!?」

俊斗からの言葉を聞いた瞬間、カートを押す手が止まった。

遥「いいいい、今なんて言いましたかっ」

俊斗「夫婦みたい」

遥(なんで考えていることが分かってるの!?)

顔を手で抑え、真っ赤に染まる遥の頬を見て、俊斗は意地悪に笑う。

俊斗「冗談だって。早く買い物済ませるぞ」

遥「は、はい……」

何事も無かったかのように、遥の手からカートを奪って歩き出した。

それに追いつくように遥は早足で追いかけた。

遥「あの、」

俊斗「どうした?」

隣に並んで歩いていた俊斗を見上げて、話しかけた。

遥「なんだか多くないですか……?」

さっきまでカゴ1つで足りていたのに、何故かカゴ2つが満杯になっている。

遥(私、こんなに入れたっけ?入れた覚えないんだけど……)

遥が頭を捻って考えていると、俊斗が答えた

俊斗「俺が入れた」

遥「どうしてですか?」

俊斗「結衣が帰ってきてるから足りなくなると思って」

カゴの中で山積みになっている食べ物をよく見て見ると、それは餃子を作るための食材や、レトルトのものが入っていた。

遥(結衣ちゃんが居るからこんなにいるの……?流石にこんなに要らないんじゃないかな)

そんな考えは一瞬にして吹き飛んだ。

俊斗「結衣の女友達が5人くらい来るらしい」

遥「5人……?レトルトばっかりでいいんですか……っ?」

俊斗「なんでも食う集団だから大丈夫だ」

遥「あはは……」

苦笑いが抑えきれずに笑った。

遥(なんでも食べる集団って……なんだか笑っちゃいそう)

遥「ふ、ふふっ」

考えが行動に出てしまい、つい笑ってしまう遥。

俊斗「なんで笑ってるんだ?」

不思議な目をして遥を見つめる。

その瞳に吸い寄せられるかのように顔を赤くする。

遥(その顔で見つめてくるのは反則ですよ〜……!)

落ち着かない心臓を抑えて、一度深呼吸をした。

気持ちを抑えながらも答えた。

遥「なんでも食べる集団って……なんだか面白いなと思いまして」

ふふっ、とまた笑うと俊斗も笑った。

俊斗「確かにな。言い方が悪かったかも」

遥「ですね!」

二人で談笑しながら買い物をすると時間が過ぎていく。

レジで会計をしていると……。

女子生徒「え……!?あの人一之瀬様じゃない!?」

友達「本当だ!!って、隣にいるの雪乃さんじゃない!」

ギクリ。

そう体が凍っていく。

ギギギ、と音を立てるようにして振り向くと、そこには目を輝かせる二人組がいた。

そして猛スピードで駆け寄ってくる。

女子生徒「雪乃さんって一之瀬様と知り合いだったの!?」

友達「なんで一緒に買い物してるの!?まさか付き合って……」

一度に何度も質問されて圧倒していると、後ろから俊斗が顔を覗かせた。

俊斗「遥、もう会計終わったから帰るぞ」

遥「一之瀬さん……っ!」

遥は顔を青ざめて、一生懸命に俊斗を止めた。

でも俊斗の勢いは止まらない。

俊斗「レジの前じゃ、邪魔になるからもう帰ろ」

二人組「ひゃぁ〜!!」

目をハートにさせて俊斗を見ている二人に、遥は少しモヤっとした。

遥(一之瀬さんがモテるのは普通なのになんで……)

邪魔になるため、一度外にでた。

二人組「二人って付き合ってるんですか!?」

俊斗「付き合ってる」

あっさりと答えてしまった俊斗に、遥は驚きが隠せない。

遥「付き合ってませんよ!!」

手と顔を思いっきり横に振る。

そんな遥の様子を気に止めずに、俊斗の言葉だけを信じている様子。

遥(信じてよ……っ!付き合ってないんだから!)

俊斗「とりあえず帰るから」

遥の手を握って歩き始めた。

遥は連れられながら二人組をチラチラと見た。

ポーっと眺めている様子に安心した。

遥(よか……った〜。睨まれたり、してない)

ホッと胸を下ろして、手を繋いで家に帰った。

○1時、キッチン

餃子の種を作って巻き始めようとした時、俊斗がやって来た。

俊斗「俺もやっていい?」

遥「えっ」

そんなことを言われるなんて思ってもよらずに、驚く。

遥「いいですけど、難しいですよ?」

俊斗「教えてくれ」

遥「はいっ」

腕をまくってやる気を上げた。

遥「まず餃子の皮に水を塗ります」

俊斗「はい」

遥「この時、半分まで端っこを塗るんです!」

俊斗「あぁ、そういうこと」

俊斗は簡単に巻き方を習得して、テキパキ作ってくれた。

遥(一之瀬さんのおかげで早く終わった……)

お礼をする為に俊斗の前に立つ。

遥「ありがとうございます!」

ぺこりと頭を下げると。

俊斗は頭をポンポンと軽く叩いた。

俊斗「これくらい全然だよ」

ふ、と笑って、俊斗は自室に戻ってしまった。

ぺたりと床に座り込んだ。

遥(今の笑顔は反則すぎる……!餃子も手伝ってくれたし)

熱が収まっていない状態で立ち上がった。

フライパンに油をしいて、作った餃子を乗せる。

じゅーと油が音を立てた。

少したって餃子が出来上がると同時に、ドアが開いた。

結衣「あっ、!遥……!」

開けた人物は結衣だった。

遥「結衣ちゃん!!」

すぐに餃子を皿に乗せて、結衣に駆け寄った。

結衣「何か作ってたの?」

遥「あ、うんっ!餃子を」

結衣「へぇ〜!出来たら食べさせて欲しいな」

そんな結衣の願いを断ることは無く、遥は受け入れた。

遥「一皿出来上がってるから先に食べて!」

そう言って部屋に招き入れた。