私は震える手で奈美子さんの携帯の番号を押した。

3回目のコールで「誰?」という奈美子さんの声が耳に入る。

「私・・・先日お会いした一宮皐月です。神原奈美子さんの携帯で間違いないですか?」

すこしの間があき、奈美子さんの息を飲む音が聞こえた。

「本当に連絡が来るとは思わなかった。あなた、正気?」

「はい。正気です。」

自分の声が硬くて、緊張で強張っているのがわかった。

「そう。」

それだけ言うと奈美子さんは含み笑いをした。

「そんなに廉のことが好きなんだ?」

「・・・はい。」

「どいつもこいつも馬鹿みたい。笑っちゃう。」

「・・・・・・。」

「いいわ。じゃ今度の日曜日、空けといてね。時間と場所が決まったら私から連絡するから。」

それだけ言うと奈美子さんはブツッと電話を切った。

もう引き返せない。

でも廉を守るにはこれしかない。

私が一回だけ・・・一回だけ我慢すれば廉は自由になれる。