「冬実さん。改めて紹介するよ。僕の一人娘、皐月です。」

「初めまして。皐月です。よろしくお願いします。」

驚愕の事実をまだ受け入れられない私だったけれど、精一杯愛想良く笑顔を振りまきながら、冬実さんに向かって挨拶した。

私の目の前には義弟となる五代君がすまし顔で座っている。

そして時たま私の方をじっとみつめ、口元だけで笑ってみせた。

な、なんなの・・・?

その笑みは威嚇?

それとも友好の証?

私もまた引きつった笑みを浮かべる。

それにしても、まさか五代君が私の義弟になるなんて。

こんなことならもう少し考えれば良かった。

でも・・・。

私は隣に座るパパの幸せそうな笑顔を眺めた。

パパのこんな顔を見せられたら、今更再婚に反対なんて言えっこない。

「皐月ちゃん。このチーズケーキ、皐月ちゃんの手作りなのね。私、お菓子作りはあまり得意じゃないから、今度一緒に作らない?色々教えて欲しいわ。」

「はい!喜んで。」

私はにっこりと冬実さんに向かって微笑んだ。

「ククッ・・・居酒屋の店員みてえ。」

そうぼそりとつぶやき、忍び笑いする五代君をじろりと睨み、無視を決め込む。

「廉!皐月ちゃんに失礼なこと言わないで頂戴。」

冬実さんがそう窘めると、五代君は肩をすくめた。

冬実さんはおっとりとした口調で話す、品が良く優しそうな女性だった。

冬実さんに対してはなんの不満も不安もなかった。

きっと家族になっても問題なくやっていけるだろう。

問題は、義弟となる五代君だった。

はたして私は、五代廉という同い年の男子と、家族として上手くやっていけるのだろうか?

「廉。このチーズケーキ、美味しいわよ?頂きなさいよ。」

「そうだよ。皐月が廉君の為に気合を入れて作った力作なんだ。遠慮せずに食べて、食べて。」

冬実さんとパパの言葉に五代君はフォークを手にした。

「・・・・・・。」

五代君は無言でチーズケーキにフォークを刺すと、たった3口でそのチーズケーキを食べ終えた。

「廉。皐月ちゃんが作ったチーズケーキ、美味しいでしょ?」

冬実さんの問いかけに五代君は「まあ、手作りにしては。」と偉そうに言った。

はあ?!

別にあんたに食べてもらう為に作ったわけじゃないし!

しかしここで大人げない態度を取るわけにはいかない。

義姉としての余裕を見せなければ。

「五代・・・廉君に全部食べてもらえて良かったです。廉君は味の好みにこだわりがありそうだから。」

私は先日の件を思い出し、嫌味をこめてそう言った。

すると五代君も先日の件を持ち出してきた。

「皐月さんにはこの前、クッキーを貰って・・・それも美味かったっす。」

「ちがっ・・・あれは、野乃子が・・・。」

「今更、嘘つかなくてもいいじゃん?」

「・・・・・・。」

「あら。もうふたりはそんなに仲良しなの?」

パパと冬実さんはニコニコしながら私と五代君を交互に見た。