「──風呂入れ」

 下宿先のアパートに到着するや否や、金持くんはすげなく言い放った。
 1Kのお手頃物件に御曹司を招待する日が来るとは、なんてことを考える暇もない。急かされるまま荷物を置いて着替えとタオルを引っ張り出し、風呂場へ直行する。
 そこで肩に羽織ったままの上着を思い出し、慌てて扉を開けたら突然「後でいいから‼」と物凄い剣幕で怒られた。まだ何も脱いでなかったのに理不尽だ。
 とはいえ金持くんの言う通りにお風呂に入って温まったら、ようやく人心地がついた気がした。

「……金持くんに、久しぶりって言ってないや」

 元気だった? とか。もしも再会したら、笑顔で思い出話をするつもりだったのにな。
 私の想定では、それは同窓会とか……もう少し落ち着いた場所だったけど。
 曇った鏡に写る私の顔は、お湯で温めてもなお青ざめていた。