御曹司の金持くんはマイペースな幼馴染にめっぽう弱い

 それで──正直に言うと、高校の記憶はあまりない。
 何せ直田がいなかったから。
 ひたすら勉強と部活に打ち込むしかなくて、そのうちに直田が好きだったことを自覚して、悠長に構えていた中学時代をめちゃくちゃ後悔して。

『あーあ、澪ちゃんにパパって呼んでもらいたかったなぁ』

 全部分かっていながら白々しく嘆く父に初めて殺意を覚えて。
 それでも直田に会って想いを伝えるには、勇気が出なかった。
 向こうは俺のことを何とも思っていないかもしれないし、存在すら忘れてるかもしれない。恋人の一人や二人いたっておかしくない、うわもう無理だ想像したくない──と、こんな無様な調子だった。
 それが。

「……欠かさず見てたとか、ほんと……」

 敵わない。どこまで振り回すつもりだろう。
 陸上頑張って良かった。メンズモデルは成り行きでしかなかったけど、引き受けておいて良かった。マジで良かった。
 疎遠になった後も、直田が俺をずっと覚えててくれたことが、心に留めてくれたことがどうしようもなく嬉しい。
 例えそれが幼馴染の義理でしかなくても──。
 いや、待て。でもさっき直田もちょっとぎこちなかったよな。途中からこの状況に焦りだしたよな? 今は爆睡してるけど、意識はしてたよな? 爆睡してるけど!

「…………外堀、埋めるか」

 中学を卒業してからの約六年間。もうあんな虚しさと後悔は味わいたくない。
 それに林山健人のようなクソ野郎が二度と直田に近付かないよう、徹底して守りを固めておかなければ気がすまない。

 ──直田には、笑っていてほしい。

 そしてできることなら、隣でその笑顔を見ていたい。

「俺、お前がいないと、無理だわ」