御曹司の金持くんはマイペースな幼馴染にめっぽう弱い

『かねもちくん、一緒に帰ろ』

 それで初っ端から直田という、今まで接してきたことのないタイプの友達を作ってきた俺を見て、父は大層喜んでくれたものだ。

『かねもちくんじゃなくて金持くんでしょって、ママに怒られた。ごめんね、かね、金持くん』
『金持くん、遠足の班おんなじだね! 今日おやつ買いに行こ』
『これ? ドッジボールで突き指したの』
『金持くんが休んだ日にプリント持ってったんだけど、おうちデカすぎて工場かと思った……』
『受験しないの? じゃあ中学も一緒だね』

 直田はのんびりとした子だった。彼女の周りだけ時間がゆっくり流れているような、一緒にいると落ち着いて──いつまでも隣にいたくなるような。そんな子だった。

 しかし、中学校に上がってから直田と話す機会は目に見えて減った。

 金持という苗字に釣られて俺の周りに人が増えてくると、直田はそれを避けるように少人数のグループに行ってしまう。
 元から騒がしい場所が苦手のようだったから、初めは気にしていなかったが……まさか卒業までそんな距離感が続くとは露にも思わず。

『高校、別々だね。元気でね、金持くん』
『……直田も』

 卒業式。校門の前で交わした言葉はたったそれだけ。
 控えめに手を振って立ち去る直田の背中を見て、何故だかひどく心細かったことを覚えている。